大野道寛さんに聞く3 カウンセリングだけでも受けたい美容師

数か月先まで待たされても、カット30,000円でも担当して欲しいと思わせる大野さんのカウンセリング。インタビュー第3回は未来の展望についても聞いてみました。

第1回はこちら→ 大野道寛さんに聞く1「個人ブランディング」修業時代

第2回はこちら→ 大野道寛さんに聞く2 YouTubeで伝えたかったこと

 

こんがらがってるのをほどいてあげるカウンセリング

――大野さんは「こんなにしっかり話を聞いてもらったのは初めて」「自分の髪やヘアスタイルについてこれだけわかりやすく説明してくれた人はいない」という評価をされていますね。

大野 そんなに変わったことはしてなくて、できるだけわかりやすく話す、それに尽きると思うんですけどね。自分の意見はしっかり伝えるけど、押しつけないようにしているかな。『ACQUA』時代、小村さんや綾小路さんの接客を毎日見ていたのは大きいかもしれないですね。綾小路さんが「美容師はコミュニケーションがすべてだ」というようなことをよく言っていたのを覚えています。その頃インプットしてきたものが、いま役にたっているのかもしれません。

――動画を見ていると、まずはお客様の悩みを聞くところから始めていますが、そこから先は現状解説、複数の解決方法の提示、その中から美容師側のベストを提示…という流れがすごく自然でプロっぽいと感じます。

大野 あまり自分では意識したことなかったんですけど、そうですね。複数提案して、自分としてはこれがベストと思うというのを伝えますけど、選ぶのはあくまでお客様、というようにしています。後で怒られたくないというのももちろんあるけど、やっぱり人は説明されて、その後自分で選びたい、自分で決めたいんだと思うんですよ。

ーーカットやカラーの解説、一般の人にはわかりづらいことも上手に説明していますね。説明って足りなくてもいけないし、し過ぎると面倒に思われてしまうので、その辺も含めて上手だなあと。

大野 ひとつには、今のお客様って詳しいし、専門用語なんかもよく知ってるので、やりやすいというのがあると思いますよ。あと、紙のヘアカタログしかなかった時代と比べたら、今は画像でお客様の「こうなりたい」という認識を共有できるのは大きいと思います。したいスタイルは決まっているわけだから、あとは髪質や今の長さやその他の条件を見て、それになれるかどうか、どうしたら可能かを説明してる……たいして変わったことはしてないような気がします。

――その当たり前のことが、意外と難しい美容師さんもいるのかもしれません。

大野 動画を見てくれた美容師さんから「さっそく真似しました」というコメントをもらったことがあります。あと、「地元のサロンに行ったら、そこの美容師さんが大野さんの動画と同じこと言ってました」とお客様から言われたこともあります。そういうのは嬉しいですね。役に立ったってことですから。そういえば、明日名古屋からカウンセリングだけ受けに来る方がいるんですよ。

――カウンセリングだけに料金を払うというお客様が出てきているんですね。実際のカットやカラーはもちろん大事なんだけど、充実したカウンセリングが求められている。

大野 今って情報が多すぎて選べる時代だから、逆に自分の髪をどうしていいのかわからなくて迷子になっている人もいます。カウンセリングでは、情報過多でこんがらがっているのを、ほどいてあげる作業も多いですね。お客様が迷っている場合は、違う角度から切り込んで解決法を提案するようにしています。あまり極端だと失礼になってしまうので、気をなきゃいけないんですけど。僕ショート・ボブ専門美容師を名乗っていますけど、この方は長い髪の方が似合っているなと思ったら、切らない方がいいですよって言いますね。

 

「美容師が髪を切らない世界」も見据えていたい

――2021年6月、木村直人さん、田中亜彌さんと新しいサロン『devoted』を始めた時、大野さんは「美容師の終わり方を考えている」というような発言をしていましたね。

大野 まだ答えが出たわけではないですが、最後はどういうのが一番いいんだろうねというようなことを、二人と話したりします。多分これからも世の中の状況は大きく変わっていくし、自分もそれなりの年齢になって体力頼みの仕事ではいけないと思うし。サロン自体は好調で、コロナ禍にも関わらずお客様は増えているんですけど、これが最終形態ということはないと思っています。

――男性美容師さんの場合、ある程度の年齢になると独立してオーナーになって……というパターンが多かったですが、現在既にそのパターンも成立しづらくなっています。

大野 今までだったら、経営者になってスタッフを雇って、売り上げの何パーセントかを自分の給与にして……ということだったんだろうけど、これからはそれ以外の方法もいろいろ出てくるでしょうね。まだ一般には確立されてないやり方も含めて。『devoted』も今までのサロン形態に比べたら変わってて、僕と田中亜彌がそれぞれ代表で、木村はプロデューサーという形。店舗は構えずにモールサロンを利用しています。働く場所は、その時代によって変わっていいと思うんです。将来もしかしたら、お互い違うところで働いているけど、僕たちは『devoted』という仲間、というような状況があるかもしれませんね。

devotedのメンバー【https://devoted.style/より)

 

――現在アシスタントはいないけれど、人を育てたいという気持ちはありますか?

大野 サロンを作って、スタッフを育てるというのをやってみたいという気持ちもあるんですよね。でも従来の方法では絶対やらないだろうと思います。雇用形態も、スタッフ同士の関係も、教育も、今までの美容室とは違う方法だったらいいんじゃないかな。将来、本当に人づくりに本気になったら、両立は無理なんで僕自身はスタイリストから退くんじゃないかなあと思います。

――大野さんはこれからも時代の動きを見ながら変わっていくんでしょうね。

大野 時代を読むという意味では先輩の木村と一緒にやれているので、たくさん示唆は受け取っています。メタバースの仮想空間が当たり前になれば、最終的に髪を切らなくなる世界になるかもしれない。そういうビッグバンが起こった時に対応できないと、どんなに成功した美容師もサロンも生き残れなくなってしまう。状況の変化に対して的確に自分たちも変わっていく、『devoted』というサロンはそのためにあるんです。何より、独りでやっているより心強いですしね。

――今後も注目しています。ありがとうございました。

 

prifile/大野道寛おおの・みちひろ

1985年生まれ、東京出身。山野美容専門学校卒業後、表参道のトップサロンにて10年勤務。その後フリーランスとしてマンツーマンで顧客を担当する。20代よりショートスタイルの評価が高かったが、現在は「ショート・ボブ専門美容師Ⓡ」を打ち出し、ヘアスタイルに悩みを抱えた女性たちの希望をかなえている。そのサロンワークの様子を収録した動画は自身のYouTubeチャンネルにて公開され、多くの視聴者が美容師の力を再確認することになった。チャンネル登録者数は現在12万人に迫っている。2021年には木村直人さん、田中亜彌さんと新ブランド『devoted』を立ち上げ、新たな展開を図っている。

 

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