AI搭載の次世代型ミラー「ECILA」に迫る
時代のニーズに合った製品やオリジナリティある製品を生み出す現場の裏側を取り上げるこの企画。
第2回目は今年の10月にタカラベルモント株式会社から発売された、次世代型スマートデバイスミラー「ECILA(エシラ)」について、製品化に至るまでの裏側などを開発本部の中山健太郎氏にお聞きしました。
画像を鮮明に表示しながら、鏡の機能も損なわないのが「ECILA」の特長。鏡とディスプレイ機能を持つハーフミラーは、反射率+光の透過率=100%になるのが一般的だが、「ECILA」はそれが100%以上になるのを可能にしたそう。※付属のカメラと操作用のタッチパッドは、実際に発売されるものとは形状が異なります。
口頭のコミュニケーションで生じる
受け取り方のギャップを減らしたい
理美容室やクリニックの業務用設備機器を手掛け、スパシャンプーベッド「YUME」やパーマ機器「air wave」など、数々の画期的な製品を生み出してきたタカラベルモント株式会社。同社が、AIを搭載した次世代型ミラー「ECILA(エシラ)」を10月にリリースした。「ECILA」は一言で言うと鏡とディスプレイ両方の機能を持ち合わせたスマートデバイスミラー。お客様の好みや顔診断に基づいたヘア写真の提示、髪型や髪色のシミュレーション、履歴を共有できるデジタルカルテなど多彩な機能を有し、カウンセリングの在り方を大きく拡張する製品だ。このミラーの特長や開発の裏側について、開発本部を代表して中山氏に取材した。
「お客様が美容室を変える理由の一つに、希望の髪型にならなかったためという声がありました。そして、この要因が技術よりも、“口頭のコミュニケーションで生じるギャップ”に起因していることが意外と多く、長年その解決を課題としていたんです。スタイリスト様とお客様の認識の齟齬をテクノロジーの力で減らすことができないか、コミュニケーションをサポートするツールをつくれないか、というのが『ECILA』開発の始まりです」
髪型の前に、好みのテイストを分類
相手を知るための会話の糸口にもつながる
近年はスマートフォンで画像を確認することが当たり前になったが、細かなニュアンスの共有には限界がある。特に新規客ほど、それを正確に把握することは難しいだろう。
「消費者リサーチの中で、希望を伝える際にヘア写真ではなく、モデルさんなどの全身写真を使われる方がいることが分かりました。彼女たちが伝えたいのは、『こういうテイストが好き』『こんな雰囲気になりたい』ということ。そういった感覚も重視し、髪型の希望の前にまず相手の好みを知るためのホームカウンセリング機能を搭載しました」
これは、お客様が事前にスマートフォン上で好みの画像を選択し、その情報が「ECILA」を介して共有されるもので、プレカウンセリング的な役割を果たす。画像は髪型に限らず、ファッションアイテムやインテリアなどライフスタイルにまつわるものが含まれていることもポイント。それらの総合的なチョイスを元に、イメージをキュート、フレッシュ、ゴージャス、モードの4象限に分類してくれる。例えば仕事帰りにスーツで来店する方の休日の雰囲気を初対面で知るのは難しいが、この機能が私服のテイストを知るきっかけにもなると中山さんは説明する。緊張したり自分のことを話すのが苦手な方でも、会話の糸口ができやすく、エンドユーザーの心情に寄り添った開発の工夫が伺える。
ホームカウンセリング画面の一部。お客様はサロンに予約を入れた後、専用アプリにて好みの画像選定を行う。ヘア写真以外にもファッションやライフスタイルにまつわる画像が充実しており、事前に好きな世界観、雰囲気を探ることができる。また、ここでは髪の要望や悩みについても回答する。
ホームカウンセリングの回答がミラー上部にアイコンで表示される。ここから会話が始まるため、実際のカウンセリングやコミュニケーションを円滑に進めることができる。
独自の知見に基づいた顔診断と、
カスタマイズ可能なヘアカタ機能
美容機器・化粧品メーカーならではの知見がふんだんに活かされているのが「顔診断」の機能だ。
「当社の化粧品事業部で教育にも使用している『イメージコンバージョン』という理論があります。顔のパーツの配置や特徴を独自に体系化したものなのですが、これに基づき68個の顔の“特徴点”から、AIが顔立ちの分析を行い、その人に似合う9パターンの髪型をレコメンドします。それぞれの持つお顔の印象を軸に、好みのイメージへの方向性や髪型の例を見える化する機能です」
ヘア写真にお客様の顔を合成する機能もあり、ビジュアルの活用で説得力が増すのはもちろん、エンタメ的な要素を持つシミュレーションとしても楽しめそうだ。そして、実際に髪型の希望を擦り合わせていく段階で用いるのが、「ヘアカタログ」や「マイフォルダ」の機能。
「『ヘアカタログ』は、当社のサーバ内に蓄積され、随時更新されていくサンプル集です。そして、『マイフォルダ』はスタイリスト様が個々に編集できる機能。打ち出したいスタイルのサンプル数を充実させることで、お客様のより細かい好みを共有したり、新しい提案につなげるチャンスにもなると考えているので、是非活用していただければと思います」
なお、「ヘアカタログ」の画像は、「ECILA」の利用者が任意で追加することができ、その分母が増えるほど参照数が増え、導入サロンの利便性も増していくと予想される。
最後に「ECILA」の展望について中山氏に伺った。
「美容室は伸びた髪を切るだけの場所ではなく、髪型が変わることで新しい気持ちになったり、ワクワクする楽しい体験を得られる場所。『ECILA』を活用していただくサロン様が増えることで、お客様がご自身の未知なる部分に気づいたり、新しい髪型に挑戦する後押しにつながったら嬉しいですね」
お客様を「ALICE」に見立て、それを映す「ECILA」。単にAIを搭載した機械ではなく、人の心に寄り添い、美容師とお客様をつなぐ新たなパートナーとなっていくことだろう。
顔診断の画面。同社独自の「イメージコンバージョン」に基づき、68個の顔の“特徴点”からAIが顔立ちを分析。印象を4象限のいずれかに分類してくれる。なお、この技術は日本顔学会でも学術発表しているそう。
ミラー横のバーコードリーダーに商品をかざすと、その情報が映し出される機能も。また、ミラー下部にサロンのキャンペーンなどを表示するバナーがあり、店販機会もさりげなくサポートする。他にも専用カメラで写真や動画撮影ができ、保存や共有も可能。
取材協力:タカラベルモント株式会社
*月刊『SHINBIYO』2023年11月号 連載「製品開発のヒミツ」vol.1より転載