極小水粒子AIRの技術を搭載した『Hydraid(ハイドレイド)』開発エピソード

 ものづくりの精神を伝える「コムセンター」

時代のニーズに合った製品やオリジナリティある製品を生み出す現場の裏側を取り上げるこの企画。第4回目は株式会社アイシンの展示館・コムセンターを訪問。施設の特徴や製品開発のエピソードについて、同社AIR事業推進部広報担当・冨永優子氏にお聞きしました。

展示館1階はコーポレートゾーン、ヒストリーゾーンがメイン。アイシンの歴史や最新技術、未来への取り組みが分かる。2階はプロダクツゾーンで、これまで同社が手がけてきた製品がずらりと並ぶ。体験型の展示もあるので楽しめる。『AIR』のコーナーもこのフロアにある。

 

自動車部品製造の技術力は意外な分野にも応用されている

美容業界では髪と地肌をいたわる機器『ハイドレイド』で知られる企業、株式会社アイシン。一般的には、自動車部品の世界的な大手メーカーという印象が強い。

自動車部品サプライヤー売り上げ収益は世界ランキングの第10位(2022年度)。車を構成するほとんどの領域をカバーする製品を製造しており、特に駆動ユニット、電動ウォーターポンプ、パワースライドドア等では世界トップクラスのシェアを誇っている。日本だけでなくアメリカ、ヨーロッパ、アジアに19の海外開発拠点、9つの先端研究機関、3つの総合試験場を持ち、20を超える国と地域の約12万人が研究・生産に関わっているグローバル企業だ。

そのアイシングループの企業展示館「コムセンター」が本社所在地の愛知県刈谷市にある。2015年に創立50周年を記念して建設され、アイシングループの最新技術、これまでのものづくりの歴史を分かりやすく紹介している施設だ。一般にも広く開放されているこの展示館を、同社AIR事業推進部広報担当・冨永優子さんに案内していただいた。

展示館の入り口付近にはアイシンの企業理念や概要を紹介するコーポレートゾーン、歴代の製品を紹介するヒストリーゾーンが続く。昭和の名車のさり気ない展示や、普段見ることのできない自動車内部の駆動ユニット、エンジン周辺部品の展示は、車好き・マシン好きにはたまらないだろう。だが多くのスペースを占めている自動車部品以外の展示でも、「えっ、こんなものもつくっているの」と興味深いものがたくさんあった。

「アイシンには自動車やモビリティに求められるあらゆるニーズに答えてきた技術力とものづくり力があります。この技術やノウハウを元に、新しい領域へ挑戦し、新たな価値を創造してきたのが企業の歴史でもあるのです。自動車部品以外のメーカーとしても認知されてきていて、創業事業であるミシン製造(2019年に事業終結)など住生活関連事業と、家庭用コージェネレーションシステム『エネファーム』や、ガスヒートポンプエアコンなどのエネルギー関連事業があります」と冨永さん。

そして、住生活関連事業で同社が長年続けてきた製品にベッド(2020年に事業終結)があるのだが、実は『ハイドレイド』の開発はこの眠るためのベッドがきっかけになっているのだという。

 

美眠るための「ベッド」と『ハイドレイド』の関係とは?

「私たちは長らくベッド事業を続けてきたのですが、同時に快適な睡眠の研究を続けてきました。質の高い睡眠を妨げる原因として、喉の乾燥、鼻づまり、肌の乾燥などがあります。これらを防ぐ湿度調整システムの研究をきっかけに、『ハイドレイド』から放出される微細な水粒子『AIR(アイル)』の開発に至ったのです」

『AIR』は通常のスチーム粒子の600分の1という非常に小さい水粒子で、もちろん目には見えない。スチーム粒子は1000nm以上の大きさだが、『AIR』は約1.4nmという小ささ。サイズ感で言うと、クジラと金魚ほどの違いがあるのだという。極小サイズの水粒子であるため、肌の水の通り道より小さく、必要な場所に確実に届き、留まることができる特性がある。

「空気中の水分子を水粒子に変換して放出する技術に関しては、自動車の排ガスの不純物を処理するカートリッジの仕組みも活用されました。こうして生まれた『AIR』技術を活用したのが『ハイドレイド』です。『ハイドレイド』は毛髪と頭皮が対象ですが、肌に対する製品としては『ウィンセル』というものがあります。どちらも『AIR』の浸透保湿力により、水分が留まることで潤いを長時間にわたって持続させるので、髪や地肌の水分環境を整え、肌のバリア機能を改善する効果があるのです」


 

広がっていく極小水粒子の可能性

 

『AIR』はその特性を活かし、美容の他、色々な分野でも活用が期待されているそうで、例えば医療では薬剤の効果・浸透を助け、針を使わない衛生的な治療に役立てることや、食品衛生において、消費期限を気にせずいつまでも美味しく食べられる食品保存の活用など、様々な企業や研究機関と協業で事業化を目指している。

「最近では発酵の促進効果から、スパークリングのお茶を製茶会社と協業で開発し、クラウドファンディングで販売したところ、即完売という大好評をいただくことができました。
『ハイドレイド』でアイシンを知っていただいた美容師さんと業界の方たちには、この微細な水粒子『AIR』が持っている大きな可能性に、今後とも注目していただきたいと思います」

 

 

 

 

取材協力:株式会社アイシン
*月刊『SHINBIYO』2024年11月号 連載「製品開発のヒミツ」vol.4より転載