ヴィダル・サスーン現トップに聞く Mark Hayes インタビュー(前編)

9月に来日した『ヴィダル・サスーン』の最高責任者のマーク・ヘイズ氏にスペシャルインタビュー。20年以上にわたってトップを務め、世界中の美容師に技術や美容哲学を指導している彼に「美容師に大切なこと」、そして「現在の美容業界の課題」について聞いた。

 

――今回は世界中を回り、様々な美容師を指導しているマークさんに、色々なお話を伺いたいと思います。まずは、「スクールシップ 教育プログラム」もそうですし、何十年も前からアカデミーを持ち、教育に力を入れている『ヴィダル・サスーン』が、どんな美容師を理想とし、育てたいと思っているかを聞かせてください。

Mark 美容師は、人を美しくするのと同時に、その人をハッピーにする仕事です。私にとって真の美容師とは、何よりもお客様を大切にする人。次にクラフトマンであるということ。つまり、手仕事の職人であるということですね。そしてトレーニングを大切にする人です。この3つがとても大切で、このことに集中すれば最高の美容師になると思います。

――クラフトマン、手仕事の熟練した職人となるために、トレーニングが大切だということですよね。

Mark 『ヴィダル・サスーン』は70年以上の歴史がありますが、なぜ、こんなに成功したのかというと、「トレーニング」を大切にしてきたから。ヴィダル本人が早い時期に、技術のトレーニングと人間性のトレーニング、その2つが大切であることに気づいた。そして、その考えをチームでずっと分かち合ってきました。美容師としてキャリアを重ねても、下のスタッフのトレーニングを見るのはもちろん、自分自身がたゆまずトレーニングすることが大切。それこそが、この業界をより良いものへと進化させていくことにつながると思います。

――技術だけでなく、人間性のトレーニングも含まれるんですね。

Mark はい。カット、カラーなどができるようになるために、デザインや技術についてのトレーニングは絶対に必要ですが、それと同じくらい、お客様の心を知るために、コミュニケーションの勉強も大切。それから、チームワークについて学ぶことも欠かせません。チームの中には必ずスタープレイヤーがいる。そして、まだ何もできない人もいる。教え、教わりつつ、それぞれの立場でチームの一員として協力しながら、いかに学んでいけるか。そういったコラボレーション、チームワークを学ぶことも成功のカギだと思います。

――『ヴィダル・サスーン』というと、日本ではスーパー技術集団というイメージなのですが、人間性のトレーニングも重んじているというお話が新鮮でした。

Mark 私は48年間美容業界に属していて、世界中を回り、様々な美容師達に会っています。その中で感じるのは、どの国でもトップの美容師というのはアティチュード(態度や心構え)が素晴らしいということ。ヘアをつくることはもちろん上手なんですが、飛びぬけて上手でなくても、態度が素晴らしい人が美容師として有名になっている。教育においても、心構えが素晴らしい人が良い講師になる。トレーニングされる側としても、態度や心構えがきちんとしている人が伸びる。だから、美容師にとって人間性というのはとても大切なんです。

――なるほど。何よりも人間性を高めることが大切ということですね。

Mark ですから、若い美容師の方々には、自分のメンター(師匠)を見つけることをお勧めします。素晴らしい師匠を見つけて、自分を導いてもらうといいと思います。いまだに私にもメンターがいるんですよ。そして、ある程度キャリアを積んだら、今度はあなたが若い世代のメンターになってあげて欲しいと思います。

インタビューは新美容出版本社にて行った。通訳は『ヴィダル・サスーン』アシスタント・ダイレクター/美容コンサルタントの石井曜子氏。

――マークさんは40年以上、毎年、来日されているとのことですが、初めて来日された時の日本の印象はどうでした?

Mark 1983年に初来日したのですが、その時に、自分の故郷に戻ってきたような気がしました。日本人はイギリス人と似ているんですよ。礼儀正しく、サービスのレベルが高く、純粋。長い歴史とモダンさが、パラレルに共存しているところも、イギリスと似ている。違いというよりも共通点を多く見出せました。もともと私は歌舞伎や折り紙など日本のカルチャーが好きだったのですが、来日して改めて刺激的で素敵な国だと思いました。僕は日本が大好きなんですよ。みなさんは日本に住んでいてうらやましい。僕は1年に一度しか来られないから。

――日本の美容業界についてはどう思いました?

Mark 40年前に初めて来た時には、ヘアに関しては、60年代のイギリスとのカットと、50年代のアメリカ、それから少しパリの影響があるように感じました。コンテストでは、他の国の真似をしたようなデザインが多かったのですが、段々、回を重ねるうちに、日本的なデザイン、オリジナリティが出てきたという印象です。

先日行われた「サスーン スクールシップ ヘアカットコンテスト2025」の様子

――昔と今で、美容師像にも違いはありますか?

Mark 若い美容師の技術のレベルは上がっていると思います。それから、自分の考えをしっかり持ち始めている。昔は「こんなスタイルを出していいのか」と少し怖がっているように感じたのですが、今の美容師たちは、恐れずに自分のデザインや考えを表現できるようになったのではないかと思います。

――逆に、まだ日本人の美容師に足りないと感じる点はありますか?

Mark コンサルテーション力が足りないですね。日本ではお客様の言いなりになっているケースが多いように感じます。「ここまで切りますか? このくらいですね? それじゃあ切りますよ」と。コンサルテーションというのは、まず、お客様のアイディア、何を求めているかを聞く。それに対して、私達が持っている技術、知識で、お客様の見た目だけでなく、内面まで含めて、どんな風にしたらいいかをアドバイスすること。コミュニケーションが大事なんです。

――先ほど、コミュニケーションのトレーニングも大切だとのお話がありましたが、日本にはまだコミュニケーションが足りてないということですよね。

Mark そうですね。ただ、コミュニケーションということを、はき違えないでくださいね。話が上手くて、お客様を丸め込めるということではありません。一番重要なのは「聞く」ということ。ただ耳で聞くのではなく、目で、心で、すべてでお客様が望んでいることを聞く。その上で、ヘアデザインを提案することが大切なんです。

――お客様が要望として伝えていることだけでなく、潜在的なニーズも把握したうえで、ヘアを提案していくということですよね。

Mark 例えば、技術は平凡でも、お客様と最高のコミュニケーションが取れていれば、お客様は喜ぶし、また来店してくれるでしょう。逆に、最高の技術を持ったカッター、カラーリストで仕上がりが素晴らしかったとしても、そのデザインがお客様が望んでいないものだったら、全く意味がない。ヴィダルがよく言っていました。お客様が帰る時に「Look Great!」見た目が最高だけでなく、「Feel Great!」気持ちも最高であることが大切だと。技術も大切ですが、お客様のことを一番に考えられる美容師が、最高の美容師だと思います。

※後編に続きます

 

プロフィール

マーク・ヘイズ/ヴィダル・サスーン 最高責任者(VIDAL SASSOON SENIOR INTERNATIONAL CREATIVE DIRECTOR)。1977年、16歳でイギリス・ロンドンの『ヴィダル・サスーン』のサロンに入社し、ヴィダル・サスーン氏に師事。20代の頃から、クリエイティブチームに所属し、『サスーン・アカデミー』で教鞭を取る。2005年にインターナショナルクリエイティブディレクターに就任。現在もサスーンの最高責任者として、世界中でヘアショーやセミナーを行っている。歌舞伎など日本の文化にも造詣が深く、親日家としても知られている。instagram/markhsassoon

Photo : KAZUHIRO ITABASHI(SHINBIYO)