ヴィダル・サスーン現トップに聞く Mark Hayes インタビュー(後編)

『ヴィダル・サスーン』の最高責任者のマーク・ヘイズ氏のインタビューの後編をお届けします。フリーランス美容師が増える中で、世界的に課題となっている技術の継承問題について伺いました。

 

――今、日本ではフリーランスの美容師が増えていて、業界全体でサロンの在り方や働き方が変わってきています。トレーニング、教育において、どのように変化していくと思いますか?

Mark 非常に興味深い質問ですね。フリーランスというのは、椅子を借りて美容師をやっている人のことですよね? 世界的に見てその傾向があります。イギリスでは60%、アメリカでは70%の美容師がフリーランスで働いている。日本ではどのくらいですか?

――おそらく20~30%だと思います。

Mark 私達の頃は、サロンでアシスタントとして働きながら色んなことを見て覚えて、スタイリストになりました。でも、今の人達は若い頃から個人で働いていますよね。そして、私達みたいに朝早くから夜遅くまで働いてという考えがなく、ワークライフバランスを大切にしている。考え方も生活スタイルもすごく変わってきている。個人でやれば、税金の問題とか自分でやらなくてはいけないけど、好きな時にビーチに行けるし、自分のライフスタイルを自分自身で築ける。だから、若者はそれに憧れているということなんでしょうね。

――日本でもワークライフバランスというのは話題になっています。

Mark その流れが悪いとは思わないのですが、一つだけ心配なことがあります。みんながフリーランスになってしまったら、若い人のトレーニングは誰がするのかということです。これからの美容師を育てるのは誰なのか、それを懸念しています。私はサスーンで働きながら、先輩の美容師たちに、技術を含め、色々なことを教わって育ってきました。サスーンの中に学校があったようなものでした。でもこれからは、今までのようにはいかなくなると思います。イギリスでも、ヨーロッパでも、アメリカでも、サロンの在り方が徐々に変わってきています。日本もアジアもそうなっていくと思います。

――全く同じことを感じています。

Mark インターンシステムやアシスタント制度がなくなりつつある今、これからは美容学校の重要性が増すと思います。『ヴィダル・サスーン』が日本で行っている「スクールシップ」は、美容学校と提携し、美容学校でサスーンのベーシックを教え、学校の先生にもサスーンの技術と理論を学んでもらうという教育システムです。美容学校で学んだことが、サロンでそのまま活かせるので、こういった制度はこれからますます必要とされていくと思います。

通訳をしてくれた「ヴィダル・サスーン」アシスタント・ダイレクター/美容コンサルタントの石井曜子氏は、「スクールシップ」制度の発案者でもある。

――イギリスではどうですか?

Mark イギリスの美容学校だと1週間のうちの1日しか通わず、7時間しか学ぶ時間がないんです。この中に衛生管理の授業なども含まれるわけで、これではトレーニングの時間が全く足りない。美容師の技術力が低下していくことを懸念しています。美容師というのは、やはり技術の世界ですから、どう技術を守り、継承していくかということが、今一番の課題だと思います。

――技術の継承をどうするかというのは、世界的な課題なんですね。

Mark これからは、『ヴィダル・サスーン』のような今までのサロン形式と全く新しいサロン形式、2つの形式になっていくと思います。そのハイブリッドスタイルも生まれるかもしれない。例えば、フリーランスを抱えるサロンのオーナーが、お金をもらってフリーランスに技術を教えるとか、契約の際に週に10時間はトレーニングをするという内容を入れるとか。新しいシステムを考えなくてはいけないと思います。

――どのような働き方をするにしても、トレーニングを続けることが大切ということですよね。

Mark そうですね。ただ一言お伝えしたいのが、フリーランスが悪いということではないんです。美容業界が変わりつつあり、今までにない体験をしている中で、美容師だけでなく、美容協会、新美容出版のようなジャーナルなど、業界に関わる皆さんが、今後、業界をより良くするためにどうしたらいいかを考えていかなくてはいけない。これは行政の問題ではないんです。日本はいつも世界から学び、改革していく国なので、日本から新しいシステムが生まれるのではないかと期待しているんですよ。

――最後に日本の美容師の方々にメッセージをお願いいたします。

Mark 美容師というのは素晴らしい仕事です。色々な所に行けて、色々な人に会える。そして、色々な経験ができる。ただ単にヘアをつくるということではなく、写真やアート、ファッションなど様々なものから影響を受け、そういった業界に携わる人達とも知り合うことができる。他の仕事では経験することができない、自分の生活、生きていく価値を上げてくれる仕事だと思います。

 

 

プロフィール

マーク・ヘイズ/ヴィダル・サスーン 最高責任者(VIDAL SASSOON SENIOR INTERNATIONAL CREATIVE DIRECTOR)。1977年、16歳でイギリス・ロンドンの『ヴィダル・サスーン』のサロンに入社し、ヴィダル・サスーン氏に師事。20代の頃から、クリエイティブチームに所属し、『サスーン・アカデミー』で教鞭を取る。2005年にインターナショナルクリエイティブディレクターに就任。現在もサスーンの最高責任者として、世界中でヘアショーやセミナーを行っている。歌舞伎など日本の文化にも造詣が深く、親日家としても知られている。instagram/markhsassoon

 

photo : KAZUHIRO ITABASHI(SHINBIYO)