
「HANGOUT」トークセッションREPORT【前編】では、勢いのある20代デザイナー3名にコンテストにかける想いや、実践してきたことについて伺いました。
【後編】では、JHA大賞部門グランプリ受賞デザイナーである『kakimoto arms』小林知弘氏、『in chelsea』照屋寛倖氏、『LECO』内田聡一郎氏の3名に、クリエイションに対する考えやそれぞれのスタンスについて伺いました。

工藤(SHINBIYO) まず、皆さんにとってJHAとはどんな存在なのか聞かせてください。
内田 僕らの世代にとってはやっぱり特別なもの。最高峰だと思っています。一般誌含めメディアには多く携わらせていただいていますけど、それとはまた文脈が違う称号というか。だからアプリケーション(公募)のほうもいまだに挑戦するし。
照屋 僕は名古屋の郊外でお店をやっているからなおさら、全国に対して一番説得力があるコンテストだなと思います。実際、JHAを獲って色々変わりましたし。それまでも外部のお仕事はいただいていましたけど、受賞後はその内容とか規模感が変わったというか。例えば海外のセミナーとか、大きいメーカーさんからのオファーであったり、業界誌からの依頼が増えたり。それと、僕はフォトグラファーとして他の美容師さんの作品撮影もするので、そこの説得力とか見られ方も変わったのかなと思いますね。
小林 僕はコンテストの審査員含め色んなお仕事をさせていただく機会があるので、自分でも常に結果を出していたり良いものをつくっていないと、アドバイスされたり評価されても響かないだろうなっていうのが、挑戦を続ける原点ですね。JHAに関しては、以前は業界誌への作品掲載点数が年間8作品以上あることが大賞部門へのエントリー条件だったじゃないですか。それが自分の中では1年の集大成みたいなもので。雑誌社側から「またオファーしたい」と思ってもらえる自分でい続けたいというのもありますし、評価されるデザインをつくれているのかというのが確認できる場みたいに捉えています。単純に良い作品をつくりたいというだけなんですけどね。全然引っ掛からない年もあるし、でもやり続けることが自分の中で答え合わせになっている。
工藤 なるほど。ちなみに「HANGOUT」主催者の黒須さんと高木さんに聞きたいのですが、今回なぜこの3人をゲストに選ばれたのですか?
黒須 僕は業界誌に出たいとか、有名になりたいという想いがクリエイションを始めたきっかけで、高円寺でサロンをやっている身として、表参道や原宿の美容師に負けたくないという気持ちもありました。クリエイションやコンテストは平等で、かっこいい作品をつくったら一気に評価されるチャンスがあるじゃないですか。それで挑戦するようになったんです。その中でもJHAは日本一のデザインをつくった人が選ばれる場だと思っていますし、授賞式に行くとすごい熱量の人達が集まっていて本当に感動します。自分もあの壇上に立ちたいと思う一人なので、グランプリを獲っているお三方の話を聞けたら、同じ目標を持つ方のためになるのではないかなと思ってオファーさせていただきました。
高木 「HANGOUT」は“美容師を通じて人生を豊かにする”という目的が根本にあって、クリエイションはその枝のひとつだと考えています。お三方はクリエイションやサロンワークを通して人生を豊かにすることを実践されている。近年、若手美容師の熱量が高くなっているのを目にして、コンテストやクリエイションが無視できない存在になっているのを感じるんです。一方で、今は売り上げを上げるのが難しくなっている時代。クリエイション活動がサロンにどうフィードバックされているのか聞きたい方も多いだろうということで、ご本人はもちろんスタッフさんも活躍されているお三方にお声がけさせていただきました。
工藤 なるほど、ありがとうございます。今、高木さんからもクリエイションとビジネスの関係に触れるお話が出ましたが、そのバランスについてはどうお考えですか?
内田 さっきの20代の話でも出ましたけど、例えばコンテストに向けてめちゃくちゃ練習して、それによって気付きを得られるのは間違いない。でも僕が問題視しているのは、そういう業界的にウケるものとか評価されるものは、マス受けするかといったらそうではないということ。そういう意味では、クリエイティブとサロンワークはつながっていないと思っていて。でもそれでいい。なのに無理につなげていく話に持っていきがちじゃないですか。それは業界誌のせいでもあるんだけど(笑)。
工藤 …すみません(泣)。
内田 僕の考えでは2つは別物。例えばうちが推しているようなデザインカラーは、コンテスト的なものとの親和性は高い。でもそれをやりたい消費者ってどれくらいいるのかで考えたら、縮毛矯正とかヘッドスパのほうがニーズは多いわけじゃないですか。デザインの世界に身を投じるならそこに専念するはずが、黒須君もヘッドスパサロン出してるやん!って(笑)。※会場の『loca』は黒須さんのヘッドスパサロン
黒須 そこは色々あるんです(笑)。
内田 だから割り切らなきゃいけない。僕はそれでいいと思う。結果を出すとか勝ち取るプロセスを大事にするという文脈ではコンテストはやるべき。でも、それを(サロンワークと)つなげようみたいな話はしないほうがいいんじゃないかな。僕らの時代は雑誌に出るかコンテストで結果を出すことしか、テーブルに乗るためのカードがなかった。今はSNSもあるし自分でコミュニティつくって発信もできる。選択肢が多いから、クリエイティブをやらなくたって幸せになれるんです。じゃあなぜコンテストへの挑戦を続けるのかというのは、もっと“ロマン的なもの”だと思っていて。シンプルに「好きだから」でしかないから、そもそも難しく考える必要がないというか。
工藤 では、若手でロマンを追いたい人のために業界としてやるべきことって何でしょうか?
内田 例えば美容学生が見た時に何をもってかっこいいのかということとか、次世代に語られるもの、価値があるものを業界全体でどれだけ考えられるかが大事で、それを支えるのが業界誌でもあり、イベントを行うメーカーさんやディーラーさんでもある。コンテストはよくM-1に例えられるけど、僕はM-1とは思えていなくて。なぜなら賞金1千万円ももらえないし、明日からテレビに出られるわけでもない。他業界と比べてまだまだ認知度が低いんです。もっと盛り上げていかなきゃいけないけど、予算や色んな関係性の中で、優勝した人を本当のスターにできていない。HARUTOみたいに自分で語れる人はいいけど、そうじゃない人は損してしまう構造的な問題があるんじゃないかなと。そこは自分含め、フックアップする側の大人達がもっと頑張らないといけない。
高木 サロンによっては、そういう“ロマン”を追える環境にいる人ばかりではないと思うんです。クリエイションよりも売り上げが優先であったり。そこは仕方ないですか? それとも環境を変えるべき? やりたくてもやれない人もいるのではないかなと。
小林 自分はもう50歳で、30年以上美容師やっているので、若いお客さんからおばあちゃんまで幅広く担当しています。『kakimoto arms』には自分達のやり方と武器があるから、それを貫けばいいと僕は考えていますけど、若いスタッフの中には「カラフルなデザインカラーがつくりたい」って辞めていくケースもある。環境や人のせいにしないで、自分でそういうお客さんを呼べるデザイナーになればいいじゃんって思うんですけどね。『kakimoto arms』をもっと変えていくくらいの気持ちで。自分で考えることをストップしちゃった人って、絶対老けるし鮮度が落ちていってしまう。僕は鮮度を落とさないためにも、新しいものをつくる、考え続ける環境に身を投じていたほうがインプットできると思っていて、そういう意味ではクリエイションが役に立つ側面はあるのかなと。やるかやらないかは本人次第っていう答えになっちゃいますけど。
照屋 うちはクリエイティブをやりたくて入ってくる子が多いので、ある意味最初からモチベーションは高めです。ただ、やっぱりお金問題、マインド問題は重くて、そこを超えていけなくて離脱してしまう状況はあります。けど、そこは仕方ないですね。今日も名古屋でコンテストがあってスタッフが5人出場して、賞は獲れなかったですけど、5人も挑戦してくれたことは嬉しいし、そういう環境をつくれていることへの自負はあります。その子達ってサロンワークもすごく一生懸命やるんです。なので、多少なりともリンクしている部分はあるんじゃないかなって思う。クリエイティブをやってるから売り上げが上がるかというと、そこは別軸の話にはなるんですけど。

内田 今盛り上がっているコンテストって、若者向けに目線を落としてあげて、もうちょっとリアルに寄せた雰囲気にしているのが多いと思うんです。その上にクリエイティブ的なものがあるのだとしたら、彼らがそれをやる必要があるのかっていうのは別の話。ぶっちゃけ、うちの舞ちゃんだってJHAを目指す感じではないから。“競技”が違うんですよ。そこがセパレートしているのが問題なんじゃないかなって思う。
工藤 ジャンルが違うのに、同じクリエイティブの括りの中に入れてしまっているということですよね。それはどうすれば解決できますかね?
内田 別部門をつくるとかでしょうね。「一定の角度から毛先にこだわって撮るヘッドショット」が若者にとってクールじゃないんですよ。クールだったら若者も目指すじゃないですか。おじさん達がいいと思う毛先のバランスとか、ショートヘアが可愛いという定義がまず違う。若い子はロングとかミディアムを無造作に動かしてるスタイルのほうが好きだけど、そういう作品は賞に入ってこないし、あっても評価されにくい。でも僕は、これは一つのお家芸としてJHAはJHAであり続けるべきだと思っていて。そこを若者に寄せていったら今までつくってきた人にも失礼ですし。JHAがクオリティの高い世界であることは間違いない。そこに向かっていく順序というか、ステップアップしていけるような仕掛けが大事だと思いますね。
高木 JHA的なフォトコンと、立ちコンは別物っていう感じなんですかね?
内田 どうなの? 舞ちゃん。
工藤(舞) えっと、JHAとかはすごすぎてよく分からないというのが本音です。何が評価されるのかとかも難しそうで、自分には遠い存在って思ってしまいます。私が出場してきたコンテストは、思い切り今っぽいのをつくれるし、それが評価してもらえると感じていて。
内田 そのギャップを解決するのは30代の美容師なんじゃないかな。今日も来てくれてるけど、イッシキ君とかはある意味、救世主だと思う。つくるスタイルが今っぽいけど、マスには迎合していない感じとか。どうですか?
イッシキ ありがとうございます。『nenen』のイッシキケンタです。ちょうど間の意見です。僕は山下さん(山下浩二氏『Double/Double SONS』代表)の作品を待ち受けにしていたくらいJHAに憧れてますし、業界誌にも出たいって思っていて。でも世の中に出るようになったのはSNSの影響が大きいんです。内田さんがおっしゃったように、クリエイティブはロマンって僕も分けて考えている部分はあります。ただ、どんな作品をつくる場合でも、世の中やお客様に何を伝えたいのか、意志とか想い、理念が大事で、それがあればジャンルは関係ないかなとも思っています。僕ら世代が審査員の方々に響く作品をつくれるようにならないとですし、美容師としては今イケている人、一番ホットな層に刺さるのが理想っていう感覚もあるからどっちも大事ですね。
内田 なるほどね。ありがとうございます。もうお一人手が挙がっているのでどうぞ。
原田 『SITY.』の原田いちろうと申します。僕は45歳からクリエイティブを始めたんですけど、それまではずっとサロンスタイルをいかにおしゃれにつくるかにこだわってきました。両方やってみて感じたのは、サロンスタイルは「マンガ」、クリエイティブは「小説」。小説をかみ砕いたのが「ドラマ」で、それがいわゆる“リアリティブ”なのかなと。次世代が“面白いドラマ”をもっと表現して、クリエイティブへのきっかけがつくられると分かりやすのかなと思いました。ドラマをきっかけに、小説に興味を持つ感覚もきっと出てくると思いますし。
内田 でも、「小説は見なくてもいいかな」って層も一定数いるんじゃないですか?
原田 そうなんですけど、やっぱり見ると見ないとではアウトプットの奥行きが違ってくるのかなと。
内田 確かに今は分からなくても、難しいものを見ることが大事っていうのは僕も経験があるから共感します。1年目か2年目の頃、師匠にフランス映画を観ろって言われたんですよ。で、観て3分くらいで寝たんですけど(笑)。それがジャン=リュック・ゴダールの映画で、アンナ・カリーナっていう女優が出ていたんですね。それから10年後くらいにある撮影でイメージの話をしていた時に、フォトグラファーが「アンナ・カリーナみたいな感じ」って言ったんですよ。僕は知ってたからそれが掴めた。その経験がなかったら一生知らないままだったと思う。そういうことなんです。ひとつ解像度を上げてしゃべれるという豊かさを手に入れている。JHAもお客さんにはすぐつながらないし、なんか難しいことをやってるように見える。でもやり続けていると、それがかっこよく思えてくる瞬間が多分あると思う。それでいいんじゃないかな。
HARUTO 僕は20代ですけど“ロマン”は好きです。去年JHAも新人賞にノミネートしていただいて授賞式の会場に行って、シンプルに「美容の王道ってかっこいいな」って思ったんです。王道をもっと知りたいなって。僕らは情報の上澄みを編集するのが得意な世代ですけど、そういう王道をどう解釈して新しい時代をつくっていくかが問われてるなって、内田さんの話を聞いてすごく感じました。
内田 やっぱね、JHAは特別なんですよ。JHAがなかったら小林さんや照屋さんとこんなに深い関係になれることはなかったでしょうしね。今でもお互いに刺激し合えて。そういうのを得られたのは純粋にありがたいです。
照屋 こちらこそです。地方の美容師からすると、こうやって仕事が広がったり仲間が増えるのはすごく夢のあることだなって、改めて思いました。
工藤 皆さん、深いお話ありがとうございました。最後に、クリエイションを頑張っている方々にお三方からエールをお願いします。
小林 まず自分が良いと思うものをやってみること。最初は真似でもいいので、何回かやっていくうちにバランスとかテイストとか、自分はこういう感じなのかなという“自分らしさ”が見えてくるはずです。そしたらそれを継続的に磨いていくこと。あとは、何より楽しみながらやることが大切だと思います。
照屋 有名になりたいとか、業界で名を馳せたいという野心が少なからずあるなら、撮影でもコンテストでもまずは1回本気でチャレンジしてみるべきだと思います。その先に、賞だけに限らない結果だったり、自分の中で新しいものが見つかったりするもの。ぜひ、一緒に頑張りましょう。
内田 クリエイティブをやったら食えるわけじゃないけど、やった上でサロンワークもSNSも頑張ってようやく周りと戦える。今はそれくらい厳しい時代です。お客さんやモデルにとって「何が良いか」に気づけることがクリエイティブ。だからこそ、若いうちからそれを意識しながら人と接し手を動かしていけば、5年後10年後もっと楽しい美容人生になると思います。今日はありがとうございました。

左から内田さん、小林さん、照屋さん、黒須さん、高木さん、後ろにいるのがいけののさん
こうしてトークセッションは盛況のうちに終了。その後は、内田さんのpodcast「soucutsの庭」収録へ。さらなる激論を交わしながら夜が更けていくのでした…。
内田さんがオーガナイズするpodcast「soucutsの庭」では、さらにぶっちゃけトークが繰り広げられました!
≪PROFILE≫
小林知弘/1976年生まれ。山野美容専門学校卒業後『kakimoto arms』入社。現在はチーフデザイナー兼副社長を務める。@koba5122
照屋寛倖/1976年生まれ。名古屋綜合美容専門学校卒業後、名古屋市内2店舗を経て、2010年『in chelsea』をオープン。@inchelsea_teluya
内田聡一郎/1979年生まれ。国際文化理容美容専門学校卒業、神奈川県内1店舗を経て『VeLO』のオープニングに参加。2018年『LECO』をオープン。@soucuts


