「人生の伴走者」として寄り添う。美容師・眞子さんが提唱する、心と外見を繋ぐ「アピアランスケア」の真髄

抗がん剤治療や脱毛症など、外見の変化に直面した時、人はどれほどの孤独を感じるのでしょうか。その不安を技術と対話で解きほぐす「アピアランスケア」を同じ美容師として多くの方に知ってほしいという、埼玉県東松山市で「KAMI結」を経営する美容師の眞子桂子さん。彼女が単なる「ウィッグ販売」の枠を超え、なぜ患者さんの「人生」にまで深く関わり続けるのか。その原点と、知られざる現場の物語を伺いました。

眞子桂子さん

――2015年に訪問美容からスタートされたそうですが、なぜそこから「アピアランスケア」のサロンをたちあげたのでしょうか。

眞子さん: 以前から訪問美容をやっていて、お客様のご自宅を回る中で、「抗がん剤で髪が抜けてしまい、普通の美容室に行くのが怖い」「個室のあるサロンがどこにもない」という声を、驚くほど多く耳にしたんです。皆さん、どこに相談していいか分からず、途方に暮れていました。

実は私には、生まれつき髪に悩みを持つ「縮毛症」の子供がいます,。幼い頃から、大人用のヘアピースを子供の頭に合わせて必死にアレンジして作ってきました。その経験があったからこそ、ウィッグは私にとって特別なものではなく、生活を支える身近な道具だったんです。

2017年に自宅にサロンを作ったのは、そんな「行き場を失った方々」のために、ゆっくりと自分自身と向き合える場所が必要だと確信したからです。

――患者さんは、どのような心境でまなごさんの元を訪れるのですか?

眞子さん: ほとんどの方が、髪が抜けるショックで心が揺れ動いています。特に脱毛が始まる1週間から10日間ほどは、皆さん本当に辛い時期です。「排水溝に溜まっていく自分の髪を見て、怖くて泣き崩れた」と仰る方も少なくありません。

この時期の不安は、単に「見た目が変わる」ことへの悲しみだけではありません。同時に社会や家族の中での「自分の役割」を失うかもしれないという恐怖なんです。だからこそ、私は心理学も学び、カウンセリングを何よりも大切にしています。

ウイッグの採寸の様子

 

――美容師として技術はもちろんですが、がんを患っている方へのカウンセリングや会話など、心理的なアプローチで気をつけていることはありますか?

当事者の心理としては、「受容」というか、告知から進んでいく中で、最初は受け入れられない自分との戦いがあります。実際に脱毛が始まって治療が始まると、やっと「現実にあるんだ」と受け止める。個々にアプローチは異なりますが、お客様の思いに寄り添うことを基本としています。

サロン内には可動式パーテーションも常備

――お客さんは自分ががんだというプレッシャーがある中で、すぐにまなごさんに心を開いてくれるものなんですか? 

それが「サロン作り」かもしれません。環境としてサロンっぽくないつくりにしています。2DKのお家で、コンセプトはお友達の家に遊びに行ったような空間作り。カウンセリングの座る位置や椅子の位置、オリジナルのカウンセリングシートなど、話しやすいように組んでいます。

また、個室でプライベートサロンにし、絶対に(他のお客さんと)重ならないよう予約を取っています。その方が、お客様も安心してお話しできるし、心を開いていただけます。

あとは「情報量」というか、その方のライフスタイルに合わせた提案をしているのが口コミで広がっていて来店していただける方が増えています。

――特に印象に残っているエピソードを教えてください。

眞子さん: 以前、30代のキャリアウーマンだった患者さんがいらっしゃいました。彼女は大腸がんで人工肛門(ストマ)になり、さらに治療で髪も失いました。以前はパンツスーツが似合う活動的な方でしたが、ストマのためにワンピースしか着られなくなり、見た目の変化に深く傷ついていました。外見を整えることは、単なるおしゃれではありません。もう一度「自分自身」として社会に踏み出すための、命を守るケアなんです。

――そんな壮絶な体験をされていたのですね。

眞子さん: このエピソードをきっかけに、外見の変化がどれほど残酷に社会や家族との繋がりを断ってしまうのかを世の中に知ってほしいと思い、ショートムービー(『あなたへつなぐ物語』)を制作しました。また、真面目な啓発活動だけだと、どうしても届く範囲が限られてしまいます。そこで、M-1グランプリなどの予選に出たりしました。「お笑い」や「エンタメ」という入り口があれば、多くの人が「面白そう」と興味を持ってくれます。

――「アピアランスケア」のゴールは、どこにあるとお考えですか?

眞子さん: 面白い表現をされたお客様がいらっしゃいました。ウィッグは「下着やパンツと同じ」だと。少しのズレやヨレも気になるし、人に見られるのは恥ずかしい。

だからこそ、治療を終えてウィッグを外す「自毛デビュー」の瞬間は、本人にとっては「下着を脱いで外に出る」ような、とてつもない勇気がいることなんです。でも、デビューして1週間後に「もう楽になった、普通に戻れた」と連絡をいただけた時、私はこの仕事の本当のやりがいを感じます。

――治療後も、ケアは続くのですね。

眞子さん: はい。実は抗がん剤治療が終わった後のほうが、悩みは深くなることもあります,。新しく生えてくる髪がチリチリしていたり、なかなか伸びなかったりします。お医者さんは「また生えてくるから大丈夫」と言いますが、思い通りの髪質には戻らないことも多い。それから、人の頭の形は千差万別です。ハチが張っている方もいれば、絶壁の方もいる。私はただ毛先を整えるだけでなく、その方の「元の雰囲気」に戻すために、毛量の調整や前髪のカールの作り方に徹底的にこだわります。技術次第で、ウィッグは「被らされているもの」から「自分の一部」に変わるんです。

私は「人生の伴走者」として、ウィッグ卒業後もヘッドスパや髪質改善を通じて、その方の人生にずっと寄り添い続けていきたいと考えています。

――ウイッグの助成金制度にもかかわったとか。

眞子さん: 今、私は「アピアランスケアの補助制度」を地元の自治体で作る活動もしています。6年かけて地域の議員さんと連携し、ようやくウィッグ購入の助成金が実現しました。こうした支援が当たり前になり、いつか「アピアランスケア」という特別な言葉自体がなくなるような、優しい社会になってほしいんです。

提供しているウィッグの一部

――最後に、今後の展望を教えてください。

眞子さん: 新店舗では、髪だけでなく肌の悩みや、お洋服、下着の選び方まで含めた「全身コーディネート」の提案を始めています,。理美容師は、患者さんが社会に戻るための「橋渡し役」です。

無毛症も先天的・後天的な原因がありますが、アピアランスケアは抗がん剤治療の脱毛だけではない、ということ。そして頭だけではなく全身(眉毛・まつ毛・体毛)に関わることなので、理美容師の役割はすごく大きいです。

3年ほど前に厚労省からも「病院は美容師を紹介する」という方針が出ていました。それほど、髪に関しては専門職に橋渡しをしてもらうことが重要視されています。

看護師さんも情報共有したいけれど、なかなか手が回っていないのが現状です。最終的に(外見を)作れるのは理美容師の力。社会に出るきっかけを作る、とても重要な立ち位置だと思っています。

お客様にも「元の自分」に戻れる場所は、必ずある。それが美容室だと伝えたいです。

◆眞子桂子
18歳で自身の見た目のコンプレックスをヘアメイクで克服した経験から美容の道へ。その後、自身の介護経験や闘病生活を機に、美容を通じたケア活動を本格化。2015年に『KAMI結』を起業し、「統合美容家」として活動をスタート。
東洋医学や心理学の知識を活かし、薄毛・脱毛症へのアピアランスケア、福祉美容(介護・障害)、訪問による緩和・ターミナルケアまで、本人と家族の心に寄り添う美容療法を展開。その独自の活動がメディアで多数取り上げられ、「美容で生きる力を届ける」をテーマに講演活動も行う。