美容週間振興協議会 全国美容週間実行委員会(瀧川裕史理事長・2022年度実行委員長)は8月30日午後6時から、都内港区のハリウッド美容専門学校ハリウッドホールで人気美容師によるトークセッションを開催した。初の試みというセッションは、同日午後からの「The Beauty Week Awards 2022」およびフォトコンテスト表彰式に続く今期美容週間の目玉企画。会場には多くの若手美容師らが詰めかけたほかライブ視聴も行われた。
ゲストにALBUMのNATSUMI、LECOの内田聡一郎両氏を迎えてのスペシャルトークライブでは、工藤亮SHINBIYO編集長のナビゲートで「自己ブランディング~成功する美容師のための道しるべ」をテーマに、自分のブランドをどう構築していったらいいのかを昨今のSNS事情等も織り交ぜながら話し合った。
工藤氏によるゲストのプロフィール紹介に続いて「美容師とソーシャルメディア」をテーマに、自分のことをより多くの人に認知してもらうための理想的な情報発信や
現状における課題等についてそれぞれが持論を展開した。名刺のような存在としてインスタグラムを活用しているというNATSUMI氏は「自身の価値観を多くの人に伝えるツールのひとつ」とした上で、美容師とサロンとの関係性が「ALBUMにいるNATSUMI」から「NATSUMIという美容師がALBUMにいる」に変わってきていると述べ、今はフォーカスが店よりも個人に当たる時代であることを指摘した。
いっぽう、ナビゲーターから「SNSで有名になったというよりも業界における美容活動を通じて知名度がアップしそれにフォロワーがついてきたパターン」と紹介された内田氏は、自身のSNSについて「誰かに見せるというよりも自己確認が目的ですから完全に日記ですね。ヘアスタイルもアップしますが、自分はこういうスタイルが好きなのでアーカイブしておきたいという気持ちで挙げています」と語った。
内田氏によると、最近は「発信したくない」という美容学校生や若い美容師の声も多く聞くという。「美容師になるとSNSでの発信が仕事になり、義務感さえ感じている人も少なくないようだ。美容学校生の更新頻度は意外と低いし、投稿履歴を残したくないという学生も珍しくない」。NATSUMI氏も「何のためにインスタをやらなければいけないのかと疑問を感じている子もいます」と同調した。
内田氏はさらに、インスタグラムでブランディングしていけばいくほど普段の自分から乖離してしまい、そのギャップに悩むスタッフがいることも紹介した。そして、フォロワー数などSNSへのレスポンスと売り上げが必ずしも比例するわけではないことを強調し、SNSへの過度な依存に警鐘を鳴らした。
若手だけでなくオーナーなどキャリアが豊富な美容師のSNSに関する話題もでた。「スタッフに頑張れと言うならオーナー自らが模範を示すべき(内田氏)」「ゴルフを挙げたいなら自分の裏アカウントでやればいい。誰のために発信するかが大事(NATSUMI氏)」。ナビ役の工藤氏は「手法ややり方のコツもあるが、一番大事なことは美容師として何をしたいのか、自分をどう売っていきたいのかというマインドの部分ではないか」とまとめた。
セカンドテーマの「ヘアデザイナーとしての心構え」では、NATSUMI氏は「お客様が描いていた満足を超えたところに感動があると思うので、どうしたらそこにたどり着くことが出来るかいつも試行錯誤しながら仕事をしている。向上心が無くなったらおしまい」。いっぽう世代的に先輩の内田氏は「おしゃれでなおかつ技術に対してもストイックであることが原宿、青山エリアで生き残れる絶対条件でしたから、そういう域まで達しないと『田舎へ帰れ』と責められた時代。怒られるのが怖いから夜中までやらざるを得ないという面もありました。でも、今は『遅くまでやるほうが効率悪いでしょ』『能力が無いから遅くまでやってるんじゃないの』となってしまう(笑)」
関連して工藤氏から、オールマイティではなく特化型を目指す若手美容師が増えていることに対する意見が求められた。内田氏は「デビュー後2~3年くらいはお客様の希望にバランス良く応えられることが大前提だが、集客という意味では特化はすごく大事」。NATSUMI氏も「やはり集客面を考えると一つのことに特化して打ち出していく必要がある。そこから紹介等でいろんなつながりが生まれてくるので、最初はこれと決めて続けるべき」と両氏とも特化型に好感を示した。
ただ、内田氏によると特化を目指そうとしてもなかなか上手くいかない人も多いという。これに対しNATSUMI氏は「一週間、一か月やってみたけど結果が出なかったからとすぐに変える人も珍しくありませんが、そんなに簡単に結果は出ません。取り敢えず3か月間は全力でやってみること。最低でもこのくらい続けないと、この人はこれを押しているんだというのが伝わりません」とアドバイスした。
最後のテーマは「内田&NATSUMI的未来予想図」。ナビゲーターが「今日はオンライン配信で見てくれている美容学校生もいるので、彼らがモチベーションを上げ夢を描けるような話を」と振ると、NATSUMI氏は「あり得ないことですが、一度インスタグラム等のSNSが無くなったら面白い。SNSに頼らずに集客するというのは今どきじゃないけど、それでもお客様を呼べる底力みたいなものも必要だなと感じています。今のアシスタントはモデハン(モデルハンティング)もモバハン(モバイルハンティング)でやってますけど、昔のように自分の足で街に出て声をかけてみるとか。SNSが無くなっても大丈夫なくらいの発信力や行動力、体力が求められる」、内田氏は「最近、貪欲な人間しか残れないという社会は果たして正しいのかとよく考える。『やる気のあるスタッフしか要らない』って声高に言うオーナーは多いけど、うちのやる気のないスタッフが辞めたら困る(笑)ので、そういうスタッフの背中も押してあげられるような組織を目指したい」とそれぞれユニークな視点で未来図を語った。
(ALBUM/NATSUMI氏)
1992年、東京都出身。東京美容専門学校を卒業後都内で1店舗を経て2015年にALBUMに入社。1年でスタイリストデビューし2018年からディレクター。売り上げ実績も高く500万円オーバーの月も多い。
(LECO/内田聡一郎氏)
1979年、神奈川県出身。国際文化理容美容専門学校通信課程を卒業後県内1店舗を経て上京。VeLOのオープニングに参加し2018年に自身のブランドであるLECOを立ち上げた。現在4ブランドを展開中。
ALBUMのNATSUMI氏
LECOの内田聡一郎氏
弊社SHINBIYO編集長の工藤亮がナビゲーターを務めた
インスタグラムの実例も紹介された
会場には若い美容師が目立った
熱心にメモを取る人も見られた
取材:小牧 洋