全国理容連合会(全理連)中央講師会(山本賢司会長、木下裕章幹事長)は2月27、28日の両日、福岡市で「令和5年度春期研修会」を開催した。コロナ禍にあって3年ぶりの開催となった今研修会では「deepen learning(ディープンラーニング)~学びを深めて様々なことを知る~」をテーマに、講演会や技術・研究発表などが精力的に行われた。今研修会では初の試みとして講演会に講師会メンバー以外の一般組合員や消費者も参加するなど“開かれた中央講師会”をアピールした。
初日は正午過ぎから市内の西鉄グランドホテルで記念講演会などが行われた。全理連中央講師会の講師数は現在136名(名誉講師25名を含む)だが、会場には約300名が詰めかけた。これは「講師会のことをより多くの人に知ってもらうための啓蒙活動も必要(木下幹事長)」と県内の理容組合員や一般消費者等にも案内したため。木下幹事長も挨拶の冒頭でこの新しい試みについて触れ「これまでの研修会参加者は講師会のメンバーだけだったが、今日は理容業界のことを知らない人も多数参加している」と前置きして、同講師会発足(昭和51年)の目的や主な活動内容などを説明した。令和3年度に新体制となり幹事長に就任した木下氏は「コロナ禍を乗り越えて新たなスタートを切り、真っ白なキャンバスに希望を描いて未来に繋げていこう」との思いを込めて「オールホワイト」という活動テーマを設定したという。
3部構成で行われた初日の研修会では、はじめに東京2020パラリンピックの「ゴールボール」で銅メダルを獲得し、昨年3月にゴールボール日本代表選手としての活動を引退後はゴールボール・シニアアドバイザーとして後輩の育成やパラスポーツの普及に携わっているという浦田理恵氏が「逆境をチカラに変える小さな積み重ねと感謝の習慣」と題して講演した。
教師を目指していたという熊本県出身の浦田氏は、大学生だった20歳の時に急激に視力が低下し網膜色素変性症に。現在も左目の視力は無く右目は視野98%、強いコントラストのものしか判別できないという。見えるフリをしてごまかし続ける自分が嫌で生きる意味も見失っていた彼女は、母親に「見えない」と告白出来てから肩の荷が下りたという。日常生活は不便になったが、逆に人への感謝の気持ちを気づかされるなど発見も多く「ピンチはチャンス、自分が出来ることを少しずつ増やしていこう」と前向きな気持ちになれた。90歳を超えた祖母の「お互いが助け合うのが世の中」という言葉も、これまでの考え方や生き方を変えたという。浦田講師はゴールボール競技で大切なポイントとして「思いやりの心」と「双方向のコミュニケーション」を挙げた。この二つが上手くいくと競技だけでなく仕事や生活もスムースになるという。
後半では本田誠一名誉講師がアイシェード(目隠し)を装着してゴールボールにチャレンジしたり、假屋浩一講師が浦田氏に寄り添いながら壇上まで誘導するなど体験会も行われた。最後に、視覚障害者がヘアサロンに来店した時の接し方について「素晴らしい技術は大切ですが、安心・安全はそれ以上に大事。とにかく具体的な情報をもらえることが一番嬉しい」と語った。
続く「ヘアワールド2022」の報告会では、昨年9月にパリで開催された世界理容美容技術選手権大会の模様が映像やナショナルチーム・メンバーによるスピーチで再現された。3日間にわたって国際見本市会場で開催された同大会には35を超える国と地域から約700名が参加。理容日本代表シニアチームは出場選手上位3名の合計得点で競われる団体戦でバーバーカテゴリー金メダル、テクニカルカテゴリー銀メダルを獲得した。また、個人戦でもシニア・バーバーカテゴリーのクラシックフェードおよびスキンフェードカットで牟田口則之(福岡県)、仲山浩史(東京都)、小針秀文(同)の各選手がそれぞれ金・銀・銅メダルに輝くなど表彰台を独占。牟田口選手はテクニカルカテゴリーのクラシックカットでも金メダルを獲得した。このほか、個人戦種目ではHAIR WORLDジャパンカップオープン2022「メンズヘアピース」で優勝した中島聡選手(茨城県)も金メダルを獲るなど、理容日本の存在感を世界にアピールしたという。報告会ではトレーナーとして参加した栗野大輔、片桐寿彦、濱野雄一の各氏も紹介された。
金メダル選手によるスピーチで牟田口選手は「コロナで2年間大会が無く、その悔しさで挑んだことが良い結果につながった」、仲山選手は「大会が無かったため一度は引退も頭をよぎったが、諸先輩の『チャンピオンになったら次を育てなさい』という言葉に励まされて続けることが出来た」、小針選手は「ナショナルチームはこの業に入ってからの憧れ。今後は次の世代にバトンを渡すのが自分の責任だと思っている」、中島選手は「一念発起して25年ぶりに競技に再挑戦した。これからも年齢に関係なく人として職人として成長していきたい」とそれぞれ熱い想いを語った。
講演第二部では、千葉県で完全会員制ヘアサロン「Le.Patch INTERNATIONAL」を経営する中谷嘉孝全理連中央講師が「お客を捨てる勇気~コロナ禍を勝ち抜いてきた人がこっそりやっていたこと~」をテーマにサロンブランディングについて講演した。
中谷氏は早くからサロンブランディングの重要性に注目し実践してきた。その成果をまとめた著書「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」「お客を捨てる勇気」等は多くの業界人に愛読されているという。また、2012年には飲食業界にも進出し、食べログ浦安ラーメンランキングで1位を記録したほか、2015年には自らが手掛けた「美髪伝説PREMIUM」がモンドセレクションで金賞を受賞した。更に翌年には、独身女性専用アパートメント「麗賓館」、翌々年には女優の大場久美子氏とのコラボサロン「リフレクソロジー和萌優つぼ」浦安店などもプロデュースして話題を呼んだ。
講演で中谷氏は、地方の片田舎で成功を収めている複数のヘアサロンを紹介し、その共通の要因としてブルーオーシャン戦略や店主の思い、こだわり、ウリ、強みなどを挙げたあと、これからのヘアサロンビジネスに大切なこととして店側の顧客選びを強調した。「客を選ばない店は客からも選ばれない」が信条だという中谷氏によると「この店でないと困る」と思ってもらえるブランドサロンになるためには客を捨てる勇気も必要で、小さな店にとっては本気度(こだわり)こそが究極のブルーオーシャンであり、店の最終兵器でもあるという。
研修終了後の午後5時からは会場を鳳凰の間に移して懇親会が開かれた。山本賢司会長が「皆さんの教育活動や組合員のサロンワークに役立つ実りの多い研修会にして下さい」と挨拶したのに続いて、来賓の山口利光佐賀県理容組合理事長が九州を代表して歓迎の挨拶を述べた。乾杯の発声では小副川浩二福岡県理容組合理事長が「組合の課題は山積しているが特に組合員店舗の売り上げ低迷が深刻だ。皆さんの教育活動には本当に期待しています」と中央講師の教育活動に謝意を示した。祝宴に移ってからは、7月5日の発表に向けて現在準備を進めているという「ヘアクリエーション2024」の担当講師6名によるスピーチやマジックショーも行われた。
2日目は営業支援策やトレンドラボも
翌28日午前10時からはアクロス福岡・円形ホールで研修2日目が行われた。安藤聡氏の司会で木野島徹副幹事長が開会の辞を述べたのに続いて山本会長、木下幹事長がそれぞれ挨拶した。
この中で山本会長は今年の1月に開催された教育制度委員会について言及し「改革案の一環で情報提供の在り方も議論された。紙媒体から動画での配信へと移行していくことが求められているが、こうしたツール等を効果的に活用しながら講習ではとにかく組合員に分かりやすい解説をお願いしたい」と述べ協力を求めた。大森利夫全理連理事長の祝辞も紹介され研修に入った。
最初の「営業支援プロジェクト」では初めに木下幹事長が、全理連・新営業推進検討委員会が進めている組合員店への営業支援策について概要を説明した後、担当講師の坂口拓也、荻原奈々、早坂精徳氏が「Move」のレイヤーボブ、ミディアムレイヤー、ショートレイヤー、グラデーションボブについてスタイリングと解説を行った。
もう一つの営業支援プロジェクトでは、山﨑裕介講師が「理容サロンにおけるムダ毛処理」をテーマに、脱毛市場の現状や理美容サロンの脱毛事情などについてレクチャーした。山﨑講師によると男性の脱毛需要は急激に伸びていて、最近は「介護脱毛」がニューワードとして注目されているという。この後、タカラベルモント(株)、滝川(株)、(株)MISHの各担当者によるメンズ脱毛のプレゼンテーションが行われた。続くトレンドラボのステージでは早坂精徳、片岡天平、掛巣光弘の3講師が昨今の社会情勢やファッションとマネーの関係等について研究成果を発表した。
続いて行われた「新会員ステージ」では、コロナ禍でお披露目の機会が無かった令和3年度の入会新人3名がモデルを使って技術を披露した。プレゼンをした久後靖幸、山崎桂、田中泰平の各新人講師は、認定審査時の論文内容を解説しながら得意の技術を駆使してスタイルを仕上げた。プレゼン後は客席の先輩講師陣から「カットを教える時のポイントは」など厳しい質問が出たほか、場内をウォーキングしたモデルからも技術に対するシビアな感想も寄せられるなど緊張感溢れるプレゼンステージとなった。
最後の「コンテストミッション」は、全国大会の種目について中央講師会の各担当メンバーがそれぞれの考え方について考察・提案するもの。木野島徹副幹事長の司会で1部(濱野雄一、片桐寿彦、坂元久文講師)、2部(倉田和俊、花島和久講師)、3部(稲垣武臣、石井亮、吉田和生講師)の各担当講師が「第75回全国理容競技大会(令和5年9月19日、北海道立総合体育センター)」に関する競技事項、変更点等を説明しながらウィッグによる参考作品や参考衣装なども披露した。山口貴志副幹事長による閉会の辞で研修会を終了した。
初日、挨拶する木下裕章幹事長
講演する浦田理恵氏
パリ世界大会の報告会
講演する中谷嘉孝氏
講演に聞き入る参加者
懇親会で乾杯の発声を行う小副川浩二福岡県理容組合理事長
懇親会ではヘアクリエーション2024の担当講師(右から6人)が紹介された
二日目の研修会冒頭で挨拶する山本賢司会長
営業支援プロジェクト①の「Move」担当メンバーと作品
営業支援プロジェクト➁で理容店の脱毛についてレクチャーする山﨑裕介講師
新会員ステージのもよう
コンテストミッションでは解説に加え参考作品、衣装も紹介された
会場外では3社による脱毛体験会も開かれた
取材:小牧 洋