テーマは「フリーランス美容師のこれから」全美容師の約15%占め、さらに増加傾向
第8回BA東京美容サミット/東京都美容生活衛生同業組合

東京都美容生活衛生同業組合(通称:BA東京/金内光信理事長)は3月24日午後7時から、都内代々木の美容会館9階TBホールで第8回東京美容サミットを開催した。3年ぶりの再開となった今サミットでは「フリーランス美容師のこれから」をテーマに、フリーランス美容師の現状や課題、働き方とその未来等についてパネリストたちが意見を交わした。

大田文雄常務理事の司会で進行したサミットには組合員など約70名が参加し、初めに金内理事長が「フリーランスという働き方がいま大きな形で美容業界に存在している以上、このまま放置しておくのではなく皆で考えていく必要がある」と同テーマ設定の理由を説明したあと「結論を出すことよりも業界の中に世論をつくっていくことが大事だ」と挨拶した。

パネリストは(株)ハルカホールディングスの岩井大輔代表取締役、楽天グループ(株)楽天ビューティー事業部の永田絋介ジェネラルマネージャー、(株)リクルート ホットペッパービューティーの千葉智之アカデミー長、(株)MIRROR BALLの中野剛志代表取締役、(株)スリーの寺村優太代表(フリーランス美容師)、JOMELLの菊地尊代表(フリーランス美容師)、ユーチューバーでフリーランス美容師のSHOHEI氏、社会保険労務士・行政書士の水島博巳氏に加え、BA東京からは金内理事長のほか菅谷茂樹、福島吉功、石井庸子の各副理事長、村橋哲矢専務理事。

テーマ1の「フリーランス美容師の現状と課題」では、当日ファシリテーターを務めた村橋専務理事が「業務委託型サロン、シェアサロン等のサロン形態で働くいわゆるフリーランス美容師は約8万人いると言われている。働く時間が自由だったり初期投資が無くても独立できるといったメリットがあるいっぽう、競争が激しい中で思うように売り上げが伸びなかったり収入が不安定とうデメリットを感じている人も多いようだ。今日のサミットでは参加者全員がまず美容業界の現状を理解し、美容師が幸せに生きていける経済的・社会的状況を実現していくための方向性を導き出したい。業務委託やシェア型サロンといったビジネスモデルの未来像も併せて探っていきたい」と問題提議したあと、各パネリストがそれぞれのスタンスからフリーランス美容師について語った。

初めにリクルートの千葉智之氏が現状について「2019年に1万店舗を対象に行った調査によると、業務委託を専門に経営している店は約12%、正社員と業務委託の両方の雇用形態をとっているのは約25%、残りの60数%が正社員雇用のサロン。その後のコロナ禍で増減がどうなっているかは不明だが、大きな変化は無いと思う」と基礎データを報告した。

業務委託・シェア型サロンを中心に全国で約100店舗を展開しているという中野剛志氏は、業務委託とシェア型では集客における責任の所在や売り上げの付け方、指示命令系統の有無等に大きな違いがあることなどを説明した。楽天の永田絋介氏は、雇用形態に関係なくフリーランス美容師のメリット、デメリットへの認識が曖昧な人が少なくない現状を指摘したうえで「自己コントロールが出来ないと長続きは難しい」と語った。

教育型・育成型サロンを展開している岩井大輔氏は「業務委託型やシェア型のサロンが登場した時、人を育てずに収穫だけするというやり方に最初は憤りを感じた。痛いところを突かれたのも事実だが、下積み経験のない若手がのびのびやったほうが成果が上がるという面も確かにある」としたうえで、現在は美容師が働き方を選べる民主的な形に一歩ずつ近づいている状況ではという認識を示した。

続いて3名のフリーランス美容師が発言した。雇用したスタッフをシェアサロンに派遣しているという菊地尊氏は、現在抱えている課題としてアシスタントの教育問題を挙げた。菊池氏によると、シェアサロンの場合ほかにも個人事業主のフリーランス美容師がいて客が途切れることが無いため、自分の都合だけで店を使って練習するのは難しいという。このため、ディーラーやメーカーのスタジオを借りてアシスタントの練習場所を確保している。

フリーランス美容師の経験が長く、美容学校時代からユーチューバーとしても活躍しているというSHOHEI氏は、フリーランス美容師のメリットとデメリット、実際の働き方などについて語った。まず、メリットとして、店のルールに縛られず施術料金やスケジュールなどすべてを自分で決定できること、自分が売りたいスタイルをSNS等で自由に発信出来ること、その他の副業やプライベートタイム、練習時間なども自由な点を挙げた。

そして、デメリットとしては新規集客の難しさを挙げ「フリーランス美容師の場合様々な媒体の広告によって新規客を獲得しやすくなっているが、その仕組みを知らないままフリーランスになってしまって新規客獲得で躓き、売り上げの低迷に悩む人が多い」と指摘した。また、多くのフリーランス美容師はマン・ツー・マンで対応しているため一日の施術人数に限界があり、しかも給料は固定給ではないため不安定だという。この解決策の一つとしてSHOHEI氏は自身の体験談を紹介しながら「とにかく自分の発信力を高めること。フリーランス美容師が今の時代を生き抜くために、SNSは鋏を持つのと同じくらい重要」とアドバイスした。ユーチューバーでもある同氏はユーチューブを始めた動機について「初期の売り上げ低迷に危機感を抱きそれに対する打開策だった。結果的にフォロワー数も増えてそれがまた新規客獲得につながっている。フリーランス美容師にとってSNSの駆使は必要不可欠でありひとつの方向性だと考えている」と語った。

次世代テクノロジーVRを使った技術研修体験セミナーなどを通じて美容業界にテレワーク活用を提案している寺村優太氏は「反感を買うかもしれないが事実を話したい」と前置きしたうえで、美容師のフリーランス化が進んだ結果、若手の技術力が低下したと指摘されている問題に触れ「フリーランス化が原因ではなく、サロンにおける教育の在り方ではないか」と語った。寺村氏はさらに独立したフリーランス美容師に対してサロン側が「育ててあげたのに」という反感を抱くことについては、売り上げを伸ばしているフリーランス美容師の多くが「給料をもらっている時間内での練習が許されなかったからプライベートタイムを犠牲にせざるを得なかった。店のためにSNSをやっていた時間にも給料は発生していない」などと反論している事実を紹介し、「自分が犠牲を払った分は回収したいという気持ちが結果的にフリーランス美容師の増加を招いているのでは」と持論を述べた。

増加に伴い様々な課題も

 全パネリストの発言を受けた金内理事長は、組合という立場からの視点と断ったうえで日本の縦割り行政問題に触れ「掛け金が安い組合の美賠責(美容所賠償責任補償制度)に魅力を感じて加入を問い合わせてくるフリーランス美容師は少なくないが、税務署はフリーランス美容師を個人事業主と認めているのに対して保健所は認めていないので組合加入は出来ない」、「美容師という国家資格に求められる衛生管理も重要テーマだが、これをフリーランス美容師が担保できるかという懸念もある。フリーランス美容師の増加問題は既存店への影響も予想されるので、果たして一過性の問題なのかも含めて議論を継続していく必要がある」と述べた。

後半は、各パネリストから出されたキーワードをテーマにしながら、フリーランス美容師の働き方やその未来像などについて意見を交わした。

BA東京の福島吉功氏は、面貸し型フリーランス美容師の場合オーナーとの契約内容がバラバラ(鏡1時間当たりいくら、報酬は売り上げの何%など)で、契約をめぐるトラブルも少なくないと指摘し「彼らが組合に入れるようになれば顧客の安心・安全の担保確保が進むのでは」と語った。また、今回のサミットでは紅一点の同じくBA東京の石井庸子氏は、女性のフリーランス美容師の可能性について「女性美容師が生活している環境次第」としたうえで、解決のキーワードを握るのが家族を含めた「仲間」の存在であることを指摘した。

VRを使って現在14の美容学校で教育サポートもしているという寺村優太氏によると、多くの学校が「勤務時間内で教育プログラムを組んでいるサロンや、勤務時間外の練習にきちんとした手当を設定しているサロンに学生を送りたい」と考えているという。また、フリーランス美容師が上手くいかず再び雇用型サロンに戻るという傾向も強まっているが、従来型の雇用サロンには戻らないようだ。小さい頃からITが身近にあったいわゆるZ世代には、自分の大事な顧客情報(紙のカルテ)を誰の目にも触れるような所に放置しているサロンには危機感を抱いており、「練習は強要していない」と言いながら実質的な強要に追い込むような店も敬遠するという。

これに対し、勤務時間外の練習に対して残業代を支給しているという岩井大輔氏はその理由について「一般社会における当たり前が美容業界でも常識化していくから」としながらも、公平な教育時間に対して習熟度に個人差が生じることについては「みなが納得するような調整は必要」と語った。

社労士の水島博巳氏は専門家の立場から、労働時間とみなされる教育シーンや習熟度の低いスタッフへの対処法等について説明した後、同氏の事務所で行政書士や弁護士などの個人事業主が協力し合って仕事を進めている現状を紹介し「フリーランス美容師同士が横のつながりを強くして、お互いの得意分野で助け合う動きが出てくるのでは」と予測した。

東京美容国民健康保険事業にも携わっている菅谷茂樹氏は、シェアサロンや面貸しサロンで個人事業主として働いているフリーランス美容師は同健保に加入できるが、訪問美容専門の施設で働いている場合は店舗の実態が無いために入れない、また業務委託型サロンも代表者が加入していなければフリーランス美容師は入れないことなどを説明した。

寺村優太氏からは、フリーランス美容師になったものの上手くいかず、雇用型サロンに戻ることも嫌って、全く関係のない副業をやっている人が増えている実態も紹介された。また、スタッフの採用時に雇用型サロンの多くが自店のレベルに合わせた人材を選ぶのに対して、フリーランス美容師の場合選考基準が比較的曖昧なため誰でも採用されてしまうといった問題点も指摘された。これについて寺村氏は「隣のブースから自分の客には聞かれたくないような次元の低い会話が聞こえてきても、お互いが対等な関係なので何も言えないのが現状」と語った。

育成型サロンの岩井大輔氏は「フリーランス美容師勢に押され気味な気もするが、有給休暇など雇用型サロンならではの諸制度をフル活用して魅力を高めていきたい」として、現在ベテランスタッフが生涯にわたって働けるような制度にも取り組んでいることを明らかにした。同社では高齢の美容師やネイリスト、アイリスト等が定年退職を迎えられるようにと全国の30か所で障害者をサポートするための福祉事業所を運営しており、75歳の今も現役で同事業に携わっているスタッフもいるという。

今後の見通しについてリクルートの千葉氏は、コロナ前の2018年に北米で行ったというマーケットリサーチで個人事業主が増えたという結果を踏まえ「日本のフリーランス美容師ももう少し増えるのでは」、また楽天の永田氏は「働き方が今後益々多様化した場合に備えて、雇用形態が変わった時のセーフティネットを構築する必要があるのでは。Z世代など若手の思考や働き方の変化が目まぐるしいので、情報を素早くキャッチして理解度を深める努力がすべての美容師に求められる」とそれぞれ持論を述べた。

最後にファシリテーターの村橋氏が「これからも様々なビジネスモデルが出てくると思うが、美容師としてはまず消費者の利益と安心・安全の担保が先決。が、いっぽうでそれが美容業界にどのような影響を与えるかを冷静に見極め、無条件に推進するだけでなく場合によっては行政と連携しての規制も必要になろう。皆が課題を共有して柔軟な方向性を示せることが重要ではないか」と締めくくりサミットが終了した。

挨拶する金内光信理事長

岩井大輔氏(ハルカホールディングス)

中野剛志氏(MIRROR BALL)

寺村優太氏(フリーランス美容師)

菊地尊氏(フリーランス美容師)

SHOHEI氏(フリーランス美容師)

千葉智之氏(リクルート)

永田絋介氏(楽天)

水島博巳氏(社労士)

村橋哲矢専務理事

菅谷茂樹副理事長

福島吉功副理事長

石井庸子副理事長

大田文雄常務理事

今サミットには13名のパネリストが出席した

組合員など約70名が傍聴した

取材:小牧 洋