テーマは「スタイリストの早期育成」 スピード化の是非論も議論
第9回BA東京美容サミット/東京都美容組合

東京都美容生活衛生同業組合(通称:BA東京、金内光信理事長)は3月28日午後7時から、都内渋谷区の美容会館9階TBホールで第9回BA東京美容サミットを開催した。「スタイリストの早期育成」をテーマに開かれた今サミットでは、美容学校における実践教育や新卒向け速修アカデミー、美容技術レベルの低下防止、教育の効率化、VR等のデジタル活用などをサブテーマに、パネリストのアカデミー主宰者、美容学校関係者、若手サロン経営者らが各分野における取り組みの現状や課題について意見を述べた。その功罪をめぐる議論も含めて従来から関心が高かったテーマとあって、約50名の参加者はパネリストたちの議論に熱心に耳を傾けていた。

パネリストは(学)三幸学園ビューティーアートディレクター/吉沢美香、一般社団法人 日本美容開発協会代表理事/櫻井歩、(株)COA代表取締役社長/青木大地、(株)スリー代表取締役/寺村優太、ONYX代表取締役/KOUSEI、特定社会保険労務士・行政書士/水島博巳の各氏。BA東京側からは金内理事長のほか菅谷茂樹、福島吉功、石井庸子の各副理事長、村橋哲矢専務理事、大田文雄常務理事が出席した。

挨拶で金内理事長は「早期育成」をテーマに取り上げた理由について「美容師には離職率が高い職業というマイナスイメージが付いていることもあって、志望者減少の要因の一つになっている。美容学校を卒業して就職後スタイリストデビューするまでの勉強期間は通常2~3年と言われているが、昔のインターン制度時代と違ってすでに国家資格を取得(=美容師)した状態で就職してくる彼らには、資格があるのにカットも出来ないという就職先での扱いに戸惑いや不満が大きいようだ。いっぽう、新卒者を受け入れるサロン側にも『生産性を期待できない彼らを2年も3年も抱えていく体力はもはや無い』といった切実な悩みがある。スタイリストデビューまでの育成期間を短縮することによって彼らの労働生産性を向上させ、ひいては様々な労働環境問題解決への糸口になるのではないか。ただ、早期育成には粗製濫造による技術力の低下等の懸念が指摘されているのも事実。是非論も含めて皆さんの意見を聞きたい」と述べた。

大田常務の司会で行われたサミットでは村橋専務理事が進行役を務めた。村橋氏は、昨今スタイリストの早期育成に対するニーズが経営サイドだけでなく従業員サイドにも高まっている現状を紹介したうえで、パネリストたちに学校教育の問題点や課題、国家試験課題とサロンワークとの乖離問題、早期育成による弊害問題、営業時間内での練習の現状や是非論、早期育成専門のアカデミーの運営実態など多岐にわたる質問を投げかけた。村橋氏によると、一昨年厚生労働省がワーキンググループをつくって美容学校教育の問題点について議論を重ねる中で「数百万円もの学費を払って美容学校を卒業し就職したにもかかわらず、アシスタント扱い(低い給与)のため奨学金の返済が滞りやむを得ず離職した」「学校での教育が国家試験対策に偏りすぎているため現場でまったく役に立たない」といった問題が指摘されたという。出席者たちのスタッフ育成に関する発言要旨は以下のとおり。

(吉沢美香氏)約20年間、大手美容学校の現場で教育に携わってきた。言葉では実践教育と言っていても、学生を預かる2年間で確実に国家試験に合格させなおかつ実践教育を施すというのは正直難しい。新しい情報を盛り込んだ良い授業をしたつもりでも、今の学生はユーチューブやSNSから独自に情報を得て学んでいるので『それ知ってます』と言われることも珍しくない。今はコンテンツが豊かな時代なので、これらをいかに有効活用出来るかが実践教育を成功させるための鍵になるのでは。

(金内理事長)就職先での育成方法ではなく国家試験不合格が原因で就職前に離脱してしまうという問題もある。春の国家試験では約8割が合格するのに対し、通信生が多い秋は約半分が不合格になる。美容師法では試験に合格しなければサロンでの美容行為は出来ないため、美容師の道を諦める人もいるがこれは業界にとって大きな損失だ。この“美容難民”を救済するために既存の管理美容師制度を有効活用すべきだ。

(青木大地氏)銀座で170坪(2フロア)のCOA銀座を運営している。スタイリスト16名に対してアシスタント45名という体制。私自身、入店後の技術習得で苦労した経験があるため早期育成問題には興味を持っていた。うちでは新卒社員は入社後3か月間は現場に出ず「COAアカデミー」での研修に参加してもらう。VRを使った研修も導入している。営業終了後の練習が無いので新卒社員からは「体力的に楽」という評価を得ている。また、先輩スタッフにとっても教育負担がない分、接客や売り上げアップに集中できるというメリットがある。COAアカデミーには必須カリキュラムと任意カリキュラムの2種類があり、必須のほうは定休日の終日レッスンやVR教育でなるべく早期に修得出来るようサポートしている。いっぽう、任意のほうは習熟スピードに個人差があるので一律ではなく個々に合わせた対応をしている。早期デビューによる技術力の低下という問題は確かにあるがそれによって成功しているスタッフがいるのも事実。要は本人の希望に沿えるような教育環境が整備されているかどうかだと思う。そういうサロンに学生が集まる傾向だ。

(寺村優太氏)自分も含め参加者の多くは自分の時間を犠牲にして練習した結果、技術は早く修得出来たものの体調を崩してしまったという世代だと思う。しかし、Z世代に代表される若い子たちは、労務管理の知識もある親の影響を受けているせいか長い美容人生を『健康で働きたい』という意識が非常に強い。こういう子たちを預かるとなると、昔と同じような働かせ方、育て方ではついて来ないだろう。SNSがまだ浸透していない時代にSNSで集客したり、現在はシェアハウスのプロデュースも行っているが、自分の時間を犠牲にしてSNSで集客している美容師の中には「今の顧客は店ではなく自分の努力で集めたもの」と思っている人が少なくない。一般のサロンでもSNSの作業を勤務時間内に確保してくれる所に人が集まるのではないか。サロン側がこういう配慮をしてくれたら『フリーランスになるよりもここに居た方が得』と考え直すからだ。早期育成の功罪という面で言うと、アシスタント時代に先輩から教わった多くの知識や知恵は間違いなく功なので、早くスタイリストにさせるというよりも早く美容師を楽しめる状態にしてあげたいと考えている。

(櫻井歩氏)最近、早期育成専門のアカデミーを立ち上げた。アカデミーでは3か月間サロンに出ず、スタジオで朝から晩まで勉強してもらう。カット、カラー、パーマなど11項目のスタイリング技術のほか薬剤系の技術6項目を合わせた17項目のカリキュラムを3ヶ月かけて修得してもらい、まずジュニアスタイリストになる。その後半年内でスタイリストになるというプログラムだ。このプログラムには①離職率が減る、②即生産性が実現できる等の効果がある。早期育成アカデミーを始めた理由はやはり離職を少なくしたかったから。解決へのアプローチはいろいろあると思うが、僕はキャリアのバリエーションを増やしてやることだと思う。アカデミーの受講生たちはもともとモチベーションが高いので、スタイリストデビュー後はアカデミーが想定する最低の月間売上40万円を超える(100万円以上)人もいる。当然、彼らには離職への懸念もなくここを「自分の望みを叶えてくれる場所」と捉えてくれている。早期育成による優秀なスタイリストたちのフリーランス化を防ぐには、常に一歩先のキャリアプランを示してあげること。

(KOUSEI氏)面接時に「早いデビュー」を希望する新卒者も確かにいるが、中途採用者の中には「スピードの速いカリキュラムは苦手」という人も少なくない。ONYXでは2~2半くらいでデビューできるカリキュラムを組んでいるが、それを知ったうえで面接に来てくれているようだ。「急がず着実に技術を学んでからデビューしたい」という子も普通にいると思う。

(水島博巳氏)営業終了後のアシスタントの練習に対する給料支払い問題で悩む経営者は相変わらず多い。働き方改革も美容業界には問われている。これらの問題を解決していく前提として、まずは美容師を目指す人の意欲とサロンの成長を願う経営者の意欲が上手く噛み合うことが求められるのでは。

(福島吉功氏)「新人研修はハワイや軽井沢という大手サロンばかりが注目を浴び、小規模店は見向きもされない」といった悩みをよく耳にするが、小さな店に就職した方が大事に育ててもらえることもある。

(石井庸子氏)美容師資格で就職してくるのにそれが発揮できないから辛いのだと思う。美容学校がウィッグだけではなくもっと実践的な教育をしてくれたら入店後の即戦力化が期待でき、経営者側も彼らの給料に一定の納得感を得られるのではないか。

金内理事長(右)と村橋専務理事

水島博巳氏

寺村優太氏

櫻井歩氏

KOUSEI氏

青木大地氏

吉沢美香氏

左から菅谷、福島、石井の各副理事長

取材:小牧 洋