テーマは「変革する美容業界の課題と未来」 フリーランス問題や教育制度の見直しを議論
第10回美容サミット/BA東京

東京都美容生活衛生同業組合(通称:BA東京/金内光信理事長)は3月26日午後7時から、都内代々木の美容会館TBホールで第10回BA東京美容サミットを開催した。「変革する美容業界の課題と未来」と題して行われた今サミットでは「フリーランス美容師の働き方と社会保障の充実」および「美容師生涯教育のあり方、制度見直しの可能性」をテーマに、若手美容師を中心とするパネリストたちがディスカッションした。近年、都市部を中心に増加傾向にあると言われているフリーランス美容師に対する業界の関心度は高まっており、この日のサミットにもいつもの2倍近い約100名が参加した。

ディスカッションに先立って挨拶した金内理事長はサミット開催の主旨等について「業界で話題になっている旬のテーマを取り上げて皆で議論し、広く内外に発信することで美容業界発展の一助に資することが目的」としたうえで、「過去にはこのサミットがきっかけで外国人美容師の就労が実現したといういきさつもある」と実績をアピールした。

この日のパネリストは、寺村優太(株)スリー代表、森越道大(一社)デジタルサロン協会事務局長、青木大地COA銀座代表、間嶋崇裕AMA TOKYO代表、力丸朋子氏(フリーランス美容師)、西田智美氏(同)、佐藤勢津之(公財)理容師美容師試験研修センター部長。BA東京副理事長の福島吉功、石井庸子氏も参加した。

大田文雄常務理事の司会ではじめに各パネリストが自己紹介を行った。①寺村優太氏「美容師をやりながら、業界の問題解決のための様々な事業を運営している。2017年からはVRを使った美容技術習得のための事業を行っており、現在16校、約4700人の美容学生がVRによる美容師国家試験対策や就職後の即戦力化のための技術勉強を行っている」②森越道大氏「2023年に設立したデジタルサロン協会は2年弱で約6000人の会員と約60社のスポンサー企業を獲得。美容の文化を守るためにデジタルをどう活用していけばいいのかを考えていく団体」③青木大地氏「銀座を中心に4店舗を展開。他にグループサロンという形で2店舗も運営。美容の検索・予約サイト『ホットペッパービューティー』で2年連続売り上げ日本一を達成。薬剤等の商品開発や技術本の出版を通じて美容情報を国内外に発信中」④間嶋崇裕氏「高校2年時にJNAの1級ネイリストに最年少合格。アフロート入社後異例の早さで役員に昇格し、全社員の売り上げアップに貢献。2014年にAMA TOKYOを設立し社員雇用と業務委託の併用というハイブリッド型でサロン運営している」⑤力丸朋子氏「表参道のサロンで8年間勤務後フリーランスに転向し現在8年目。シェアサロンで働きながら寺村氏の(株)スリーで広報としても活動中。女性美容師の働き方に新風を吹かせたいと奮闘している」⑥西田智美氏「4年前にフリーランスの美容師活動がスタート。以前から語学に興味があったためインバウンドを意識したビューティワークに力を入れ、現在は担当客の約50%が海外からの顧客。独立当初はフリーランス、女性美容師としての悩みも多かったので、こうした問題を解決するための環境づくりをしていきたい」⑥佐藤勢津之氏「理容師・美容師の試験や登録、管理美容師を目指す人向けの講習会、資質向上に関する調査研究等に約20年間携わってきた。資格を付与するという立場から教育面で役立てれば幸い」

二分するフリーランス美容師の評価

村橋哲矢専務理事がファシリテーターを務め、最初のテーマである「フリーランス美容師の働き方と社会保障の充実」では2名のフリーランス美容師を中心に各パネリストが現状や課題を語った。

【力丸朋子氏】「自由を求めてフリーランスになったわけではない。当時勤務していたサロンには社会保障がまったく無く歩合制も貧弱。結婚や出産、子育てで家庭に入った先輩の多くがそれまでのキャリアを無駄にしているのをみて、店側や同性の同僚たちに変革の必要性を訴えたが共感が得られず『ここには輝ける未来が無い。自分が変わるしかない』と思った。今は、自分らしく生きるってこういうことなんだと実感している。フリーランスに転向後困ったことは保障面の脆弱さ。楽しいこともたくさんあるが、長いスパンでの美容人生を考えるとフリーランスの現実はシビアだと痛感している。フリーランスを長年やってきて気づいたことなので、自由な働き方だけに憧れてフリーランスを目指している人は慎重に考えて欲しい。美容師と企業をつなげるコミュニティーを運営しているが、今後はサロンの枠を超えた商品開発やイベント、集客分野にも活動の幅を広げたい」

【西田智美氏】「使用薬剤等のしばりや休日ミーティングに窮屈感を感じていた。ウェディングのヘアを指名された時、お店の決まりで担当させてもらえなかったことも大きい。女性美容師としての将来を考えるとその店に居続ける意味を見出せなかった。転向したら社会的信用度が低いためか新規のカードが作れなかった。いろいろ不安が重なって一度だけ雇用型サロンで面接を受けたが、オーナーから『フリーランス経験者はチームワークを乱したり既存のスタッフに悪影響を及ぼすリスクがある』と言われ採用されなかった。力丸さんと一緒に活動しているコミュニティでフリーランスの女性美容師たちが抱えている不安や悩みを共有し解決の道を探ったり、お金に詳しくなるためのセミナーを開くなどの活動に力を入れたい」

【森越道大氏】「フリーランス美容師を60人ほど抱えて新しい形のビジネスモデルを展開している。うちではシェアサロンという形が一番多いが、経営理念や集客、教育等に関してきちんとした仕組みとルールをつくってあるので、雇用の状態がフリーと言うに過ぎない。それぞれチームを組んでサロン運営をしており、チームの売り上げ(収入)を皆で分配するようにしている」

【青木大地氏】「全スタッフを正社員雇用している。理由は自身で独立前にフリーランスを経験して多くのメリットも感じたが、働き安さや保障面、組織化、サポート体制等の問題を総合的に考え正社員雇用という結論になった。ただ、店舗によってはフレックスタイム制を導入している所もある。フリーランス経験者を敬遠するオーナーもいると思うが、うちでは貴重な経験と評価して正社員採用している」

【間嶋崇裕氏】「正社員雇用とフリーランスの混在型サロンを経営している。フリーランスの採用も取り入れた理由は、独立前のサロン(アフロート)に勤務中『スタッフには会社が逃げ道(選択肢)をつくってあげたほうが売り上げも伸びるのでは』と考えたから。業務委託型なら働きたいだけ働けるし他の会社でヘアメイクの仕事も可能。面貸し希望者にはうちの名前で出向させている。様々な働き方を自ら選択して体験できる環境を社内でつくってあげれば、モチベーションも高まって“逃げ道”から“攻め道”に変わる」

【石井庸子氏】「長年女性美容師を応援しているが、やはり結婚や出産、育児の問題が一番大きい。社会保障の変化に伴って今は2年近くも現場復帰しないケースもあり、顧客離れのリスクもある。助け合える仲間がいないと復帰は厳しいというのが現実ではないか」

【寺村優太氏】「スタッフが辞めてフリーランスになってしまい困ったという参加者もいると思うが、彼らの多くはフリーランスの働き方に憧れて辞めたのではなく、厳しい言い方をすれば今の若手が求めている働き方や雇用形態を提供出来ていなかったからだと思う。テーマである保障についても経営者は『フリーランスへの保障が充実すれば辞める人が増える』と懸念するだろうが、自分の道を考えているスタッフは保障の有無に関係なく辞める時は辞める。ただ、もっと若い世代に『美容師って大変』とか親世代に『応援して大丈夫な業界か』と不安視されないためにも保障の充実は大事ではないか」

【金内理事長】「フリーランス美容師の増加をこのまま放置していいのかという問題がある。とくに美容師の仕事で大切な衛生管理が確保されるかという危惧がある。重要なテーマなので今後内外に問題提議していきたい」

二つ目のテーマである「美容師生涯教育のあり方、制度見直しの可能性」でも各氏から活発な意見が出された。

【寺村優太氏】「VR教育で成功している学校では、国家試験対策に費やす授業時間が約4割も短縮できたり、VRによる技術の授業で入社後の即戦力養成をしている所もある」

【福島吉功氏】「技術講習の携帯がコロナ禍で激変した。会長を務める全日本美容講師会でも受講生が減少し対策を議論してきた。時代の趨勢なので難しい問題だ」

【佐藤勢津之氏】「(私見だが)管理美容師講習のオンライン化の可能性は、運転免許の更新講習のように将来的には有りうると思う。内容的にオンラインでも担保できることが条件になろう」

【金内理事長】「学校の授業が国家試験合格のための予備校化しているように感じる。学校側は否定するが、試験は2年目の終わりにやるのでどうしても(合格が)最大の目標になってしまうのではないか」

金内理事長(左)と村橋専務

力丸氏(右)と西田氏

右から石井、福島副理事長、間嶋氏

寺村氏(左)と青木氏

佐藤氏(右)と森越氏

大田常務

いつもの倍近い約100名が参加した

取材:小牧 洋