Double根本貴司さんに聞きたい10のこと
今、最もホットなヘアデザイナー語る「クリエイション」について

Q1 撮影するときは、どういうプロセスでデザインを考えていきますか?

色々考えますね。最初は、その時に自分が興味のあること、いつも聴いている音楽とか、気になって見ているビジュアルなどが、漠然と「点」として浮かんでいる感じです。例えば、「ニールヤング」「青空と砂漠の色の対比」「ドライなちょっと汚れた質感」とか。絶対に外せないのが音で、その音楽が流れているとしたら、どういう画が合うんだろうと考えますね。

そんな風にいろいろ考えて、漠然と方向性が見えてきたら、それに合うモデルを探し、衣装、光と決めていきます。そうすると最初に点で考えていたことが、だんだんつながっていき、線になっていくんですよ。

Q2 ヘアスタイルは、どの段階で考えるんですか?

モデルを決めた時点で何となく考えるんですけど、最終的な形は、撮影の現場で写真を撮り始めてからですね。表現したい世界観とか、雰囲気が固まった段階で、そこに合うヘアを詰めていきます。

Q3 モデル選びのポイントは?

雰囲気のある人、色気のある人。写真は2次元で表現するものだから、もちろん造形的なバランスも大切なんですが、ただかわいいだけじゃなくて、目や表情が魅力的な方を選びます。

Q4 デザインを考える上で、参考にしているものは?

いろいろ見ますよ。昔からストリートスナップが好きで、そういった写真集はよく見ています。風景の写真集なんかも見るし…カメラが好きなので、写真はついつい見てしまいますね。ただ、世界観とか、全体の色のトーンなどを参考にはしますが、ヘアデザインの参考として何かビジュアルを探したりすることはありません。

Q5 撮影が楽しくなったのはいつ頃?

カメラは20代のころから持っていて、スナップや風景は撮っていたんですが、ヘアの作品をつくって、撮るようになったのは30歳くらいからですね。

一番の転機は、JHAで新人賞をいただいたときのモノクロの撮影。この時のカメラマンが、フィルムで撮る方で、ポラをきらない主義だったんです。それで、撮影中、自分のヘアがどう写っているがずっと心配だったのですが、後日、写真のセレクトの時に暗室の紙焼きを見せてもらったら、自分のヘアが想像以上にかっこよく映っていて感動したんですよ。それからですね、撮影にはまっていったのは。そのカメラマンに影響されて、同じカメラを一式そろえてしまったほど(後日、違うタイプを買ってしまったことが判明したのですが…)。

写真って、撮ってみないとわからないことばかりで、本当に面白い。コントラストのつけ方とか、光の当て方とか、フィルムの感じとか。僕の場合、作品撮りはもちろんヘアデザインが一番なのですが、自分の思い描いている写真を表現したい、という思いが強いと思います。

Q6 好きな世界観、表現は?

もともとストリートスナップが好きだったこともあり、計算してライトをつくるよりも、いい光を探して、その中で撮りたいタイプなんです。ヘアも、つくり込んだバシッとしたものじゃなくて、さりげない感じ、手を入れてないように見えるんだけど、なんかいいと思えるものをつくりたい。だから撮影では、イレギュラーな毛の動きとか、モデルがふと動いたときに生まれる髪のいい表情とかを待っているんです。実は計算されているんだけど、つくられていないように見える、すごく難しいんですが、そんな表現ができたらと思っています。

Q7 自分で撮影する場合と、他の人に撮ってもらう時の違いは?

自分で撮影をする場合は、表現したい方向性が決まっているので、その中でよりよいところを探していきます。自分の好きなものに対してブレずにいられるので完成度は高まりますが、その反面、自分が好きな感じにしかならないところがありますね。あとは、カメラマンと、ヘア担当、半分ずつやらなくてはいけないから大変(笑)。

コラボレーションすると、自分が思いもしなかった要素が加わって、「新しさ」が生まれやすいと思います。ただ、世界観を共有できていない人と撮影するのは難しい。最初からお互いに分かり合うのは難しいので、回数を重ねて、コミュニケーションをとりながら、よいものを一緒につくっていくという感じになりますね。

Q8 ヘアデザイナーとして、最も影響を受けた人やものは?

もちろん山下(浩二氏/Double代表)です! あとは、好きな写真家もいっぱいいるし、カメラにもギターにも影響を受けましたね。いろいろです。

Q9 サロンワークと撮影で、つくるスタイルは変わりますか?

僕の場合、サロンワークでも撮影でも、ヘアをデザインする上で変わりはありません。鏡面の枠がカメラのフレームで、一つの作品だと思っているので。

Q10 これから撮影に取り組もうと思っているみなさんへ、メッセージをお願いいたします。

自分の好きなものを追求するといいと思います。興味のあることを、とことん深く掘り下げていく。最初は好きなもののマネでいいんです。でも、どんどん掘り下げていくことによって、その人らしさが出てくる。

僕は若い頃ずっと「新しいものをつくりたい」、「見たことのないものをつくりたい」と思っていたんです。でも、人間の長い歴史の中で、ありとあらゆる表現ってし尽くされていますよね。だから、結局、見たことのあるものの中からしか、デザインって生まれにくいかもしれない。じゃあ、どうやって新鮮さを出すかっていうと、組み合わせやその人なりの掘り下げ方なんじゃないかと。掘り下げて、その先に必ずしも答えがあるかは、わからないんですけどね。

あとは、簡単に自分にOKを出さないことも大事。ヘアに対しても写真に対しても、もっといいものができるんじゃないかと、しつこくねばる(笑)。中途半端だと何も残らない。とことんやるから、反省も評価も生まれ、次につながるのだと思います。

根本貴司(Double)

プロフィール/ねもと・たかし 1974年生まれ、福島県出身。仙台理容美容専門学校卒業後、都内3店舗を経て、『HEARTS』に入社。その後、別ブランドの『Double』に異動し、現在は総店長を務める。2007年JHA NEW COMER OF THE YEAR優秀新人賞、2013年JHA(ライジングスター賞)最優秀賞、2014年にJHA(大賞)準グランプリ、2015年JHA(大賞)グランプリを受賞。カメラが趣味で、普段愛用しているのはLeicaM6。