『ZACC』大野喜郎さんに聞く、「よく見る」の極意とは?
実力派美容師の「接客」「施術」のマイルール

青山『ZACC』のプロデューサーとして、また雑誌の撮影、セミナー、ヘアショーなどでも活躍中の大野喜郎さん。第一線で活躍を続ける大野さんが常に大切にしているのは「よく見る」ということ。接客や施術、自身の技術向上までを支えている、その極意についてお話を伺ってきました。

お客様の表情の変化を見逃さない

カウンセリングの際の美容師の接し方には、いろいろなタイプがありますよね。「任せて」というふうにマウントをとる方もいますが、お客様側が何も言えない状態になっているケースは結構多いんじゃないかと思います。僕自身はというと、そういう風に押さえ付けるタイプではないので、だからといってあんまりいろいろ聞いてあげるわけでもないんですけど、お客様の表情はよく見ているほうだと思います。こっちのほうが好きなのかなとか、これくらいまでは抵抗がないのかなとか、微妙な表情の変化は時に言葉以上に雄弁でもあるので、見逃さないようにしていますね。

他に見ているところは、その人の全身のバランス。これからつくるヘアスタイルが、その人のテイストに合っているのか、その人の生活に馴染むのか。やっぱりその人自身に馴染むことは「似合う」につながると思うので、そこのジャッジは大切にしています。ただ、中には馴染ませたくない、変化させたいという希望を持っている方もいるので、その辺は聞きながら探っていく感じにはなりますけどね。

お客様のタイプを読み、細分化していく

それぞれ人の顔の形も違うし、素材も違うし、ジャンルも違うし、好みも違う中で、「任せてもらいたい人なのか」「言うことをきいてもらいたい人なのか」お客様のツボをつくことは意識していますね。今のままでいいから真面目に丁寧にやって欲しいのか、再現性だけを意識しているのか、オシャレに見せたいのか。オシャレに見せたくない、という方も結構な数でいるんですよ。いろんなバージョンの方がいるので、お客様のタイプを読み込んで、頭の中でどんどん枝分かれさせていく。美容師の場合、その部分を想像できる能力がないとちょっと厳しいかなと思いますね。

「自分ならこう提案する」を常に考える

その能力を伸ばしていくためにも、若いうちから考えていくクセをつけたほうが、絶対にいいと思います。まだアシスタントだし似合わせについてまでは考えなくていいとか、自分はまだこのレベルだから何種類の提案の仕方を考えなくていい、ということはなくて、まだ切れないアシスタントだったとしてもとにかく考える。僕だったらこう提案したいなとか、この人に合っていないなとか、良いところも悪いところも先輩の仕上がりを見たりして。見ることがとにかく大事なんです。僕の場合は、悪いところを見て勉強するのが得意でした。こうしないほうがいいなとか、自分だったらこうするなとか、アシスタントの頃からやってました。接客とかも含めて。あ、でも僕はこの歳になっても接客は身についていないんですけど、、、恐ろしいことに(笑)。

接客の際、余計なことはしない

僕は接客の際、すごくおしゃべりをするわけではないので、お客様からは「緊張する」ってよく言われますね。だから苦手な部分である接客は、他の人に助けてもらってます(笑)。でも、逆の立場で考えると、自分がお金を払ってサービスを受ける側になった時に、めんどくさいとことか、省いてもらいたいところは省いてもらいたいタイプなので、そうでありたいなという思いもあるんです。病院とかもそうですけど、そこ聞かないでよ、触ってわかるでしょ、痛いところわからないの?って。何も言わなくてもツボを押してくれる人じゃないと信頼関係には結びつかないと思うんです。ツボを押すためには、プロの視点で「よく見る」ことが必要。たくさんの経験や知識があってこそ、ツボがわかるものなので。あと、あまりにこやかにされると胡散臭い気がしてしまうタイプなので(笑)、僕自身はあえて素を見せるようにしてますね。お互い疲れちゃうと思うので、嘘をつかないようにする、余計なことはしない、がモットーですね。

その人に「馴染んでいるかどうか」を確認

「切る」ことに関しては、過去のトラウマなどで不安を感じている人も多いので、カットの際は「馴染ませる」ということに重点を置いています。バンバン切っていく人の仕事を見てきて、憧れる部分はありましたけど、自分は小心者なので、一束一束少しずつ、積み重ねて切っていく感じです。あんまり「切った感」を出したくないんです。切ったけど、「あれ?元からそうじゃなかったっけ?」という雰囲気にしたい。だから毛流れとか、毛先の表情にはこだわります。自然な動き、質感、重なりなど、つくりながらその都度確認して進めていきますね。これは余談ですが、業界誌の撮影などでは、あえて「流行」を出しすぎないようにしているところはあるかもしれません。時間が経って見た時に、ちょっと恥ずかしく感じてしまう時もあるので。いつ、どの時代に見ても美しい、その人にとって「馴染み感」のあるスタイルというのが、僕の中の理想。それを大切にしながら、これからもヘアスタイル提案をしていくと思います。

大野喜郎(おおの・よしろう)1975年生まれ、秋田県出身。日本美容専門学校卒業。1995年『ZACC』に入社。プロデューサーとして後進の育成にも尽力。サロンワークを中心に、業界誌、一般誌の撮影、セミナー、ヘアショーなどで活躍中。ナチュラルで空気感のあるヘアづくりで人気を博している。