豊田永秀さん(STRAMA)に聞きたい10のこと
今、最もホットなヘアデザイナーが語るクリエイションについて

注目のヘアデザイナーにクリエイションについてお聞きします。第2回目は、ハイセンスなデザインと独自の世界観で注目を集める、『STRAMA』の豊田永秀さんにご登場いただきました。

 

Q1 撮影はひらめき派ですか? 煮詰める派ですか?

8割煮詰めていって、2割はひらめきです。意外ですか(笑)? よくひらめき派と思われるんですが、撮影にあたっては結構いろいろなことを考えるタイプだと思います。撮影までにしっかり煮詰めて準備をして、撮影当日、モデル、ヘア、衣装、ライティング…とすべてが揃い、フォトグラファーがシャッターを切って、モニターを見た時に、そこでの「ひらめき」を大切にしています。ある程度ヘアデザインも考えて撮影に臨むのですが、モニターの画を見て、そこからのインスピレーションで、へアを変えていくことが多いですね。

『SHINBIYO』2019年1月号 特集「顔周りチェンジBEFORE⇒AFTER」。この時も、カメラの前でどんどんスタイリングを変えていった。

Q2 撮影まで、アイディアを煮詰めていく過程を教えていただけますか?

いただいた企画なのか、自分で作品をつくるのかによっても違うのですが…、まずは何を目的に行う撮影なのか、それに対してどんな方向性がいいかを考えます。

その上で、大きな本屋に行く。最近は、代官山の蔦谷書店が多いですね。そこで何時間もいろいろな写真集や洋書を見てグッとくるビジュアルを探し、1ページだけでもいいと思ったページがあったら買って帰ります。そうやって、自分がいいと思うビジュアルを集めて、意識的に“クリエイティブ脳”をつくるんです。そうすると自分のやりたいことがいくつか見えてくるんですよ。その中から、撮影のコンセプトに合うものを2つ、3つピックアップしておきます。その後、モデルを決めて、最終打ち合わせに向けて準備します。

Q3 打ち合わせで心掛けていることは?

打ち合わせ前には、撮影のキャストの方たちが決まった時点で、HPなどでそれぞれの方の作品を必ずチェックしておきます。

打ち合わせで心掛けているのは、人の意見をちゃんと聞くこと。自分の思っていたことより、もっと面白いことがないか、他の人の意見を聞く。プロ同士で絞り出す感じですね。「こういうのはどう?」「それだったら、こうしてみたらもっと面白くなるかも」なんて対話ができて、それが初めて挑戦することだったら本当にワクワクします。打ち合わせがあっての本番。撮影が上手くいくかどうかは、打ち合わせでほぼ決まると思います。

Q4 撮影の現場で大切にしていることは?

撮影までにしっかり準備をしたら、本番を楽しむこと。イレギュラーなことや、想像していなかったハプニングも楽しむ。例えば、アシスタントがモデルのカーラーを取るのを忘れて、クリクリになってしまった。でも、それを活かしたデザインにしてみたら、面白かったとか。予想外のことに対応できるのがプロだし、そのハプニングが予想外のビジュアルの面白さにつながると思います。

それから、撮影は粘ること。例え1カットしか使わないとしても、時間が許す限り2~3パターンを撮影させてもらう。その時も方向違いじゃなくて、ヘアを崩してみたり、アレンジをしてみたり、違うデザインをつくってみるといいと思います。もっといいものができるのではないかと粘ることが大切。クリエイションって終わりがないものですから。

豊田さんが最も印象に残っているという作品。『SHINBIYO』2015年7月号の表紙。「コテとか割り箸とか、いろんなものを試して、このウエーブの質感を出しました。作品に取り組んだプロセスに一番思いがあります」と豊田さん。

Q5 モデル選びのポイントは? また理想の女性像は?

個性的なモデルを使うことが多いのですが…、こういうテイストと決めずに、今回の撮影にあたって、それに合う人を探すようにしています。一つ言えるのは、自分の好みで、かわいい子を選ばないようにするということかな(笑)。

理想の女性像、表現としては、モードで、アバンギャルドと思われがちなんですが、実はロングの髪をかきあげたような表現とか、エレガントで女性の本質が現れたようなビジュアルが好きなんです。アバンギャルドはトライなんですよ。僕は自分の好みでやり続けることじゃなくて、自分にないものを探すのがクリエイティブだと思っているので。

上は、『SHINBIYO』2013年2月号。 下は『TOMOTOMO』2012年1月号。 エッジが効きつつ、エレガントさやキュートさを感じさせるデザインも、豊田さんが得意とするところ。

Q6 撮影する上で「これだけは外せない」というこだわりはありますか?

撮影後にストレートダウンしたら、そのモデルが街を歩ける、手直しがいらないヘアデザインであること。僕は、撮影であっても切り直さなくてはいけないようなヘアって、女性を汚しているような気がしてしまって嫌なんです。だから、サロンワークと撮影で、提案しているヘアデザインは全く変わりません。スタイリングや見せ方が違うだけ。ただ、僕が思う街で歩けるヘアデザインは、一般目線よりは尖っているほうだと思います。

『TOMOTOMO』2010年2月号。ここでも、スタイリングによる造形的に面白いバランス、質感を表現。

Q7 撮影の際に参考にするものは? 

先ほどお話した洋書などと、映像ですね。映画は好きで、たくさん見ます。流行る前からヤン・シュヴァンクマイエルも好きだったし、デレク・ジャーマンの映画も大好きです。ちょっと毒というか、シュールさがあるものが好きだと思います。

上は『SHINBIYO』2011年2月号。下は、2013年3月号の作品。1997年くらいから雑誌の撮影などをするようになり、2009年頃から、今の自分として、グッとくるシュールな感じの作品がつくれるようになったそう。

Q8 撮影での失敗はありますか?

はい(笑)。飛ばし過ぎて、再撮になったことがあります。リアルなサロンワーク企画だったのに、クリエイティブな作品になり過ぎてしまって。それから、撮影中、モデルが倒れてしまったこともあります。そのモデルがとてもいい子で、撮影に向けてダイエットをしてくれていて、その日も何も食べていなかったようで、撮影中に体調が悪くなってしまったんです。でも、僕は撮影の世界に集中し過ぎて、その子の調子が悪いのに気づかずにいたんですよ。それからは、撮影中どんなに集中していても、周りのことをちゃんと見るようにしています。

Q09 デザイナーとして、影響を受けた人は?

師匠でもある、八木岡さん(DaB代表 八木岡 聡氏)ですね。僕の作品に対して、いつも客観的に的確な意見を言ってくれます。酷評、ダメ出しなど、耳が痛いことも多いのですが、本当にためになります。

生き方とか、考え方で影響を受けているのは、アーティストのバンクシー。彼ら(?)の活動を見ていると、僕も美容師として、経営とか教育といったスタンス以外で、何かもっとチャレンジしていかないと、と思うんですよ。

Q10 これから撮影をしていきたいと思っている、美容師の方々に向けて、アドバイスをお願いいたします

携帯ばかり見ていないで、世の中の人が「いい」と言っているものに、実際に触れてほしいですね。「世の中」というと広すぎるとしたら、まずは自分の師匠がいいと言っているものを理解することから始めるといいと思います。携帯の中で、自分の友達が評価していることが、世の中の一番じゃない。クリエイティブって、世の中を知らないとできないんです。だからこそ、自分としては興味がなくても、世の中がいいと認めているものを知ったほうがいい。そして、それがなぜ評価されているかを考えてみてほしい。そうやって世界を広げていくことが、クリエイションの第一歩だと思います。

豊田永秀(STRAMA)

プロフィール とよだ・ながひで 愛知県出身。中部美容専門学校卒。2005年、東京・代官山に『STRAMA』設立。その後、南青山に移転。2002年JHA優秀新人賞を受賞。2009、2010、2012年と3回JHAグランプリノミネート。サロンワークにて多くの支持を集める傍ら、撮影やセミナー講師、ヘアメイクとしても活躍中。