Rougy上原健一さんに聞く10の質問 前編
今、最もホットなヘアデザイナーが語るクリエイションについて

注目のヘアデザイナーにクリエイションについてお聞きします。第3回目は、モード性と女性らしさを絶妙なバランスで表現し、JHAでも数々のタイトルを獲得してきた『Rougy』上原健一さんに登場いただきました。今回は、前編となります。

Q1 デザインは煮詰めていくタイプですか? ひらめき派ですか?

ひらめき派です。髪を動かしているうちに、「やっぱり、こっちのほうが魅力的だから…」というふうに、それまでつくっていたのと全く変わることも多いですよ。モデルさんと話したり髪を動かしたりして、初めての表情を見つけたときとか、髪を触っているときの思いがけない動きとか、瞬間瞬間に五感のどれかで感じとる感覚を大事にしています。

もちろん、スタジオに入るまでに、イメージを煮詰めたり、モデルに会って仕込みをしたり、衣装も数パターンは用意したり…、要は、どうズレても怖くないところまで、できあがった作品に“ハズレ”はないレベルまでは持っていきます。でも、僕はプランに乗って、計算した通りに動くことが大の苦手なんです、性格的に(笑)。だから、僕のしている準備というのは、その通りにやるためのレールを敷いてるのではなくて、どう転んでも対応できるための工夫というか、現場で思いっきり楽しむための地固めみたいなものだと思っています。

Q2 ヘアデザインは、どのように考えていきますか?

どういう風景に女の子を当てはめるか、という視点で考えはじめることが多いですね。ただヘアスタイルだけを独立してイメージすることはなくて、まず自分の中にストーリーを描くんです。例えば、何かテーマがあったとしたら、それに合う風景はどんなところだろうか、街並みなのか自然の中なのかといったことをイメージして、その背景にはどんな音楽が流れていて、そのときの天気とか温度とかを想像して…というふうにいろいろ足していって、そこにいるなら、こんな女の子かなっていうふうな順序で、ヘアスタイルを考えていくことが多いですね。

映画もいっぱい見てきたし、音楽も好きだし、雑誌や写真集なども見ていて、自分の好きなシーン、女性の表情とかが、僕の中に残っている。ファッションもヘアスタイルも、そういうものが組み合わさった中にあるものだから、自分でつくるときも、ストーリーやシチュエーションから想像を膨らませていったほうが、そのシーンに似合うというか、いてほしい女の子のヘアスタイルとかがイメージしやすいんです。

スイッチを入れるというか、そうやっていかないと、逆にヘアスタイルが思い浮かばない。今の自分の気分や企画のテーマとかにぴったりとくるストーリーが見つかるまでが、すごく苦しいし大変なんです(苦笑)。でも、その過程でいろいろと学ぶことも多くあって、撮影だけでなくサロンワークにも活かされていると思います。

SHINBIYO2016年12月号表紙&巻頭より
昔観たフランス映画をモチーフに、80年代のパリの街を歩いていそうな柔らかなショートヘアの背の高い女の子。写真の雰囲気も含めて、懐かしい香りがする。

Q3 カメラマンさんとのコミュニケーションのとり方で気をつけることは?

今お話したようなストーリーや世界観まで共有できると、現場はすごく上手くいくし、いい作品ができますよね。でも逆に、そこまで共有できずに、自分一人でどうにかしようとしても限界がありますから、打ち合わせでは、ヘアの形とかライティングのディテールとかではなく、ストーリーや背景の肌感みたいなのを共有することが重要かなと思っています。僕がここ数年、一緒に作品撮りをしているカメラマンの松山君(松山優介さん/美容師さんの撮影を多く手掛けている)とは、お互いに好きなものを分かり合えているから、そういう人と組めると現場は楽しいですよね。

これからクリエイションをはじめる人たちは、いろんなカメラマンと撮影をしてみるのも勉強になりますけど、感覚的に分かり合える人と出会えたら長く一緒にやっていくのもいいと思います。

Q4 撮影で心掛けていることはありますか?

チャレンジすること。性格的に、すべてを安全パイで済ませるのは好きじゃなくて、できるかぎりチャレンジしたい。依頼をいただいた仕事だとしても、4ページくらいあるとしたら、1点はチャレンジしていきたいって、いつも思ってるんです。4ページをすべて合格レベルの80点でつくれと言われればできるけど、僕としてはそれだけでは満足できないんです。もちろん、4ページを安定してつくることだって、難しいと思うし、そこを究めることもありだと思います。だって、合格点まで常に持っていける美容師ってそんなにたくさんはいませんから…。でも、それだけだと物足りなくないですか? 安心感とは裏腹に、まあ、こんなもんかっていうふうに終わりたくないんです。

だから、僕は一歩間違うと外すかもしれないけど、必ずチャレンジするタイプなんです。ずっと同じテンションだと飽きちゃうし、面白いものって生まれにくいでしょう? 結果として、予想以上に新しいものができるときもあるし、上手く収まらなくて、トリッキーな方法で収拾をつけることもあります。でも、誰よりも諦めないで粘りに粘って、最終的には合格点レベルまでは持ってくように努めていますし、そうやってきたという自負もあります。

SHINBIYO2018年6月号「5アプローチ」より
1人のモデルを5変化させていく人気企画に登場。この撮影のときも、粘りに粘って、スタイルを仕上げてくれた。

Q5 モデル選びのこだわりは?

ぶっちゃけ、僕、あんまりモデルさんにこだわりはないんですけど。「この子だと、イメージが湧いてくるわ~」って、魅力的な子が理想ですけど、そんなに簡単に湧いてくるものでもないから、やっぱり、最後の最後まで粘りますよね。

自由に切らせてくれて、パーマもカラーもOKで、顔立ちや骨格が写真映えして、長い撮影でも嫌な顔せずに付き合ってくれる性格の良さ…。挙げたらキリがないし、すべてそろっていたら理想なんだけど、絶対に外せないのが、カットさせてもらえることですよね。自分の手が入れられないと、撮影する意味がありませんからね。フルカットは無理でも、どこかに自分が手を入れて、自分らしさを出していかないとね。レングスは変えられないけど、バングは切らせてもらうとか。バングはつくれないけど、長い前髪なりに生え際のクセでデザインしてみるとか。その時々の許される条件のなかで、やっぱり粘ります(笑)。

TOMOTOMO2002年7月号より
ハイトーンカラー全盛の時代のパーマ企画。こちらのモデルさんもブリーチ毛していたが、当時開発されたばかりの弱い薬剤を使用してパーマをかけたデザイン。毛先にはレザーらしい軽い質感が出ている。必ず自分の手を入れたデザインをつくるという姿勢は、このころから変わらない。

しんびよう2005年2月号より
長めショートの企画。重いフォルムをつくり、目が隠れる長さでバングをカット。上原さん自身も気に入っているスタイルで、「バング設定も自分らしい」とのこと。

――懐かしい作品をご覧いただきましたが、今回はここまで。来週の後編では、上原さんの理想とする女性像、クリエイションのヒントなどもご紹介。また、上原さんにご担当いただいた、3月1日発売のSHINBIYO4月号の情報もお届けしますので、お楽しみに!

上原健一(うえはら・けんいち)

1971年生まれ、鹿児島県出身。山野美容専門学校卒業。都内数店舗を経て、2011年表参道に『Rougy』を設立。JHAにて、2006年にグランプリ、2015年には準グランプリを受賞している。モード感がありながら、どこかに大人のキュートさを感じさせるデザインを得意とする。