注目のヘアデザイナーにクリエイションについてお聞きします。第3回目は、モード性と女性らしさを絶妙なバランスで表現し、JHAでも数々のタイトルを獲得してきた『Rougy』上原健一さんに登場いただきました。今回は、後編です。
Q6 理想の女性像、『Rougy』のイメージする女性像は?
凛としていて、可憐な感じ。相反するものを、併せ持っているようなイメージ。強さも必要だけど、大人のキュートさもほしいんですよ。そういう女性が好きですね。子供っぽすぎるのも違うし、甘すぎるのも違う。
あとは、オシャレな雰囲気は大事ですよね。よく、モードな感じっていって、とにかく切り込んだり、カッコよさや強さを押しだしたりしていることがあるけど、僕の考えはちょっと違います。強さ一辺倒だとオシャレに感じないんです。そこに、何かちょっと違うものが入ったときの、完璧なものが崩れた感じがいい。違和感とか、抜け感とか、スキとかいろんな言い方をするけど、そのちょっとが、オシャレだね、かっこいいねってなると思うんです。ちょっと、抽象的かな(笑)。

SHINBIYO2012年2月号表紙&巻頭デザイン
2011年11月の『Rougy』オープン直後に撮影した作品。
Q7 デザインのヒントとして、参考にするものはありますか?
いろんな洋書のファッション誌や写真集などを見たりします。イマジネーションを膨らませるためにヒントを探したり、インプットしようとするときは、普段の自分の生活とはかけ離れた空気感に触れたいと思うので、日本のものではなく、洋書を見ることが多いですね。写真集なら、人物が映っている作品のほうが、イメージは湧きやすいですよね。別に、いいヘアスタイルを探すとか、すごく新しい情報をキャッチしようというのではなく、若いころから憧れていたり、ずっと好きだった世界観に改めて触れるという感じかな。迷ったらそういうのを探して、自分の中に蓄積してきたものを刺激するようにしています。
僕らって、本屋に行ったり映画を見たり、日常生活でいくらでも情報収集するチャンスはあるわけですから、サロンワークだけでなくクリエイションにも携わっていくなら、できるだけ映画や音楽、アートとかに触れる時間は持ちたいですよね。撮影のヒントを探しにいくとか特別なことではなくて、僕にとっては生活の一部、自分の好きなこと、楽しみの一つとして、映画や音楽がいつでも身近にある。結果的に、そこから得たことがクリエイションのヒントになっている感じです。だって、何もしないと自分の中に蓄えられないから、何も生まれてこないですよね。
Q8 撮影とサロンワークで、つくるヘアスタイルは違いますか?
一緒なんだけど違います。仕上げ方とか、撮影ではサロンワークよりも振り幅が大きくなるというか…。例えば、お客様だったら少し引いて切るくらいだけど、撮影だったらぐっと後ろに引いて大胆にズレをつくってサーッと動かすとか、前髪の切り込みのライン設定を強めにしたりとか。ベースは一緒だけど、撮影の場合はどこかを強調したりしますね。ビジュアルとしてつくるヘアスタイルは、どこかキャッチーじゃないとダメだと思っているので、撮影ではそこを意識していますね。だから、まったく違うものではないけど、同じでもありません。

SHINBIYO2013年9月号「ショートバングとサイドパート」特集の表紙&巻頭デザイン
顔周りデザインを象徴的に見せるため、大胆なトリミングに。

このときは、12人のモデルさんで、20以上の顔周りデザインをつくった。モデルさんの表情違いも入れれば、30近い作品ができあがり、その中から16点まで絞って掲載した。
Q9 ヘアデザイナーとして、一番影響を受けた人は?
生家も美容業だったので、美容師としては親をはじめ、これまで関わってきた先輩方、友人すべての人から影響を受けていると思います。美容学校入学のために東京に出てきたときから、ありがたいことに、本当に人に恵まれていたんです。美容学校の同級生たちもいい奴らだったし、サロンに入ってからも技術的にも気持ち的にも尊敬できる先輩が多かったし…、会う人会う人みなさんにお世話になってきてます。
クリエイションや撮影に関していえば、やはり山下さん(山下浩二氏・『Double』代表)の影響は大きいですね。いろんなことを教えてもらいましたが、先程から何度も出てくる「粘る、諦めない」っていう姿勢は、僕自身が持って生まれた部分ももちろんありますが、師匠に叩き込まれた面が大きいですね。
Q10 これからクリエイションに取り組む美容師さんに向けて、メッセージをお願いします。
やってみようかなって興味があるのであれば、ぜひチャレンジしてみてください! クリエイションを好きになって楽しめるかどうかは、チャレンジしてみないとわかりませんからね。僕は、クリエイションというのは美容師にとって一番チャレンジしがいのあることだと思うし、やっていけば成長もできる。美容師としての日々が、楽しく豊かになってくるものだと実感しています。もちろん、何かをつくりだすというのは楽しいことばかりではありません。準備段階なんて、僕でいうとイメージが湧くまでは苦しいことのほうが多いくらいです。でも、その先にもっと良いことがあるっていうことがわかっているから、やり続けていけるんです。
何もやらないで終わってしまうより、日々自分が伸びていくことに喜びを感じられるって、すごくラッキーなことだと思うんです。その気持ちを、ぜひ味わってみてほしいですね。

SHINBIYO2015年1月号表紙
90年代エッセンスをテーマにした特集に合わせたウルフスタイル。強いだけでなく、けだるさやしっとりした雰囲気をプラス。
――2週にわたってお届けした、上原さんのインタビューはこれで終了です。
本日発売のSHINBIYO4月号「ただの“切りっぱなし”じゃない 重めボブの真実」では、「シザーでつくるボブ、レザーでつくるボブ」という企画をご担当いただいています。技術企画ですが、仕上がり写真は、上原さんのこだわりが感じられる作品となっています。ご興味のある方は、ぜひ、お手にとってみてください。

SHINBIYO2019年4月号より
こちらはレザーでつくるボブ。毛先の馴染み感、独特の丸さが特徴。
上原健一(うえはら・けんいち)
1971年生まれ、鹿児島県出身。山野美容専門学校卒業。都内数店舗を経て、2011年表参道に『Rougy』を設立。JHAにて、2006年にグランプリ、2015年には準グランプリを受賞している。モード感がありながら、どこかに大人のキュートさを感じさせるデザインを得意とする。