注目のヘアデザイナーにクリエイションについてお聞きする、第4回目(後編)。現在絶賛発売中の4月号『ORIGINAL DESIGN』にて作品をつくっていただいた『PEEK-A-BOO』福井達真さんにご登場いただきます。前編はデザイン発想やモデル選びについて伺いましたが、今回は福井さんのクリエイションについて、さらに深堀りしていきたいと思います。
Q6.クリエイション撮影を始めたのはいつ頃からですか?
25歳くらいかな? その当時は、うちの店でもカメラを持って撮影をしている人が少なくて。カメラを持っている先輩から「一緒にやろう」と声をかけてもらったのがきっかけで、自分でも撮影をするようになりました。最初に買ったのはニコンのF-3。それを使いこなそうと思って、いろいろ撮っていきましたね。個人的な作品撮りの他に、スタッフの作品撮りのお手伝いなどで撮ることも多く、撮影してあげた作品がフォトコンで優勝したこともあって。そのときは嬉しかったですね。
Q7.自分で撮るのと他の人が撮るのとで、何か違いはありますか?
やはり自分が考えたものを自分で撮ると、イメージしていたものにより近くはなりますよね。でも、他の人に撮ってもらうと、それ以上の化学変化が起きる。そこが面白い点だと思います。いろいろなカメラマンと組ませていただく中で、想像以上だった!というときもあれば、なんかちょっと違うなあという時もありますけど、自分にはない感性が混ざり合うことで、想像を超えるものにつながりやすいと思います。衣装は衣装の人、メイクはメイク、カメラはカメラ、そして自分はヘアデザイナーとしてヘアに力を注ぐという、いわゆる「チーム」でつくることの可能性や楽しみを見出せてからは、自分で撮るのをあえてやめた時期もあります。ただ、最近は新しくライカを買ったので、自分の中で撮影への想いが再熱しているところはありますけどね。
SHINBIYO2019年4月号より『ORIGINAL DESIGN』 超ミニマム メイキングより
クロップ(刈り上げ)を4作品全てに、さまざまな形で取り入れた作品。短く切り込みつつも、長さを残す部分をつくるなど、「超ミニマム」な中でもさまざまなバリエーションを展開している。写真家「PAOLO ROVERSI」の作品にインスパイアされ、撮影イメージは「少しぼけた写真」から発想開始。当初はモノクロ予定であったが、髪の質感をより出すためにカラーに変更。ハイトーンを少しぶらすことで美しくなると予想し、モデル4名共ハイトーンに決定。淡い光の中で浮かび上がる、幻想的で美しい作品に仕上がっている。
Q8.チームでの制作となると「打ち合わせ」が重要かと思いますが、心がけていることは?
打ち合わせで、「100%決めない」ということですね。だいたい70%くらいにとどめておく。方向性は決めますが、最終的な部分は現場で決めるようにしています。打ち合わせ時に決めすぎてしまったり、そこで全部決めようという意識でいると、チームの皆それぞれが、それ以上考えなくなってしまう。やっぱり撮影当日にももっとこうしたほうがいいんじゃないかとか、いろいろなアイデアが飛び交うような、皆が楽しいと思えるような現場にしなければいけないと思うので、その場の空気感を一番大切にしています。ピリッとしつつ、ワクワク感もある感じ。ピリッとしすぎているとアイデアも出てきづらいですけど、適度な緊張感の中にあると、良いアイデアが降りてくる気がします。
Q9.ご自身も撮影をされるので、カメラマンに対しても要求が高くなると思いますが、そのあたりはどのようにコミュニケーションを取っていますか?
やはり餅は餅屋だと思うので、カメラマンに対しても一方的に「こうして」というよりは、「こういう表現をしたい場合はどうしたらいい?」と聞く感じですね。自分がしたいと思っている表現について、現実的に実現させることが難しいことなのか、技術的に難しいことなのか、他に違う表現の可能性を見い出せるとしたら、それがどんなものなのかなどは、カメラマンと少しずつすり合わせをして答えをみつけていく感じですね。
SHINBIYO2013年2月号より『DUAL DESIGN』 “レイヤー×ウエット”
サロンのお客様向けの「コマーシャルスタイル」と独創的な「クリエイティブスタイル」という、対極的なスタイルをつくりわける企画。「クリエイティブスタイル」2点のうち、このフィンガーウエーブスタイルが、福井さんのお気に入りの作品だそう。フロントのフィンガーウエーブ部分のウエットに対し、バックにドライの質感を合わせたところが、こだわりのポイント。
Q10.クリエイションをしている人に向けて、何かメッセージをお願いします。
「オリジナリティ」を出すことって難しいと思うんですが、興味を引くものに出会ったら、それを「増幅」するクセをつけることですね。例えばですが、目にするもの何でもいいんですけど、何かのデザインが面白いなあと思ったら、造形から機能面、工夫されている点など、そのことについて自分なりにどんどん深掘りしていくんです。そうやって物事を見ていくと、「自分ならこうしたいな」という部分がどこかに出てくる。それがオリジナリティになるんです。最初は真似してもいいと思いますし、むしろ真似から学ばないとダメだと思うんです。でもいざ真似するときに、作者が何を思ってその作品をつくったのか、そこについても深掘りしていく、という風にしないといけない。ただ形だけをなぞって真似するだけだと、サル真似になってしまうからね。真似る時に、いろいろな視点を考えると、自分の好きな部分が心に残ったりして、結果的に自分のものになっていくのだと思います。
もう少しわかりやすくすると、絵画で「ゴッホ」の点画をすごいと思って真似するとしますよね。次に「ピカソ」の抽象的なキュビズム(立体派)もいいなと思って真似をする。次に「モネ」のタッチもいいなと真似をしていると、いつかその3つが混ざり合う時が来る。水墨画のようなモネのタッチなんだけど、点画で描くみたいな。その構図がキュビズムみたいな感じだと面白いんじゃないかなという発想。今はそういう先人のアイデアが本屋に行けば勉強できる。ただ単に好き嫌いじゃなくて、その時代背景まできちんと勉強すると、それぞれの技法が深く理解できるようになる。だから同じ真似をするのでも、深くなりますよね。いろいろなことを知って、深掘りして、感じて、模索する。オリジナリティの表現って、いろいろなものに興味を持った先にあるんじゃないかな。僕はそんな風に思いますね。
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クリエイションの際、さまざまなアイデアを元に、オリジナルの表現をしてきた福井さん。その創作の秘密に近付けたのではないでしょうか。4月号の「ORIGINAL DESIGN」も是非ご覧いただけたらと思います。
PROFILE 福井達真 / PEEK-A-BOO ふくい・たつまさ 1973年生まれ、京都府出身。ル・トーア東亜美容専門学校卒業後、『PEEK-A-BOO』に入社。現在、アートディレクターを務める。ユニーク且つバリエーション豊かなデザインを生み出し続ける気鋭のデザイナー。