全理連中央講師会(白川丈晴幹事長)は9月24日、都内新宿区のハイアットリージェンシー東京で恒例の秋期研修会を開催した。研修会には全国から110名の講師らが参加、研究成果の発表会や講演などに熱心に取り組んだ。
武藏均副幹事長の開会の辞に続いて挨拶した飛田英雄全理連教育委員長はまず、9月中旬に仏・パリで開催されたOMC世界理美容技術選手権大会(以下、世界大会)について全体報告を行った。それによると、これまでの世界大会は競技会場と展示会場が同じ建物内だったが、今回は別々になったことに加え、メンズ部門への出場国が少なかったこともあり、競技会場の人手はいつもより少なく見えたという。飛田委員長はまた、近年のパワーバランスの変化にも触れ「モンゴルやポーランドが非常に力をつけてきており、日本がリードしているという驕りは改める必要がある。中国がメンズに初参加したことも新しい動きではないか」と語った。
いっぽう、最近の傾向としてよく言われる“メンズの盛り上がり“は今回の展示会場でも際立っており、会場内に貼られているポスター類はほとんどがメンズ関連だったという。極め付きは帰国時のドゴール空港内に展示用のバーバーショップが設置されていたことで、「バーバーの盛り上がりぶりは今や世界的な流れだが、帰国した日本ではそういう熱気が感じられなかった」と述べ世界とのギャップを指摘した。
飛田委員長は最後に来年の東京オリンピック・パラリンピックにおける「選手村」の運営についても報告した。それによると、理美容関連の施設約240平米を理容・美容・ネイルの各ブースで三等分し、理容は80m2に椅子(8台を予定)やシャンプー設備を設ける予定。同委員長は「ネイルも理容でやる方向で交渉に当たっている」と意欲を示した。地元の東京都理容組合では現在同組合の教育部長で全理連中央講師の稲葉孝博氏を中心にプロジェクトを立ち上げて取り組んでいるが、運営には500~600名のスタッフ(理容師)が必要とあって「中央講師会の協力が不可欠」という。
挨拶する飛田英雄教育委員長
白川幹事長は挨拶で今研修のテーマ「ひらめきと新たな可能性への進化」の趣旨に言及し「ケミカル部会による長時間の研究報告は新しい試みの一つだ」と語った。同幹事長によると、これまで行われてきた各部会の報告会については「時間が短すぎる」「もっと掘り下げた報告が欲しい」等の意見や要望が出ており、これに応えるため今回ケミカル部会による異例の2時間報告会が実現した。
今研修会の趣旨を説明する白川丈晴幹事長
いっぽう、来賓の河合靖臣同講師会顧問は、河合氏が校長を務める中央理美容専門学校でも行っているダブルライセンス取得を目指す人のための既得者講習会について「理容師免許取得を目指す美容師はシェービング、美容師免許を目指す理容師はまつ毛エクステンションがお目当ての人が多いようだ。専門店、美容室を合わせると4万軒もあり、商材だけでも100億円の市場があると言われている。理容の仕事も刈って、剃って、洗ってという時代から大きく変わりつつあるようだ」と挨拶した。
来賓の河合靖臣顧問
研修会では初めにチーフトレーナーとして今大会に参加した飛田恭志講師が、世界大会の成績や日本チームが各カテゴリーにどんな戦略や作品づくりで臨んだのか、日本に対する世界の評価などについて写真も紹介しながら報告した。それによると、日本理容チームは個人のクラシカルカット競技で山﨑桂選手(埼玉)が金メダルを獲得したものの、他の競技は振るわず課題も残したようだ。いっぽうで、各国の審査員による日本のカット技術に対する評価は高く、飛田氏も「本当に注目されているのを実感できた」と手ごたえを語った。
世界大会の報告を行う飛田恭志チーフトレーナー
ケミカル部会による報告会は、会場後方に設けられた4台の椅子と男女6名のモデルを使ってパーマ、トリートメント、アイロンパーマ、ヘアカラーのデモンストレーションおよび解説が行われた。このうち、アイロンパーマのコーナーでは林淳泰講師らが難しい髪質のメンズモデルを使って8ミリのアイロンで「エイジング毛に対応する酸性アイロンパーマ」を紹介した。
ケミカル部会の研究発表(アイロンパーマ)
同講師会にはこのケミカルをはじめスタイリング、トータルプロデュース、ヒューマン、ヘアケア、エステティックの計6部会があるが、ケミカル部会ではここ数年発表の機会が増えているという。その理由について、当日リーダーを務めた石井亮副部会長は「メンズも今やヘアカラーが当たり前の時代でそのぶん髪のダメージも増えているので、ケミカルへの関心も高まっている。理容が女性客獲得に積極的になってきたこともケミカルへの関心を高めている原因。きれいなベースをいかに提供出来るかが差別化のポイントなので、今後理容師のケミカルへの関心は更に高まるはず」と予測した。10年前の発足当初はわずか4人だったというメンバーも現在は16人に増えた。
午後2時過ぎからは創業102年の畳店(山形県寒河江市)4代目の鏡芳昭氏の講演が行われた。同氏はユニークな畳屋道場(株)を創業後、熊本のい草農家と全国の畳屋を繋ぎながら、日本だけでなく海外でも様々な研修活動やイベントを展開している。「衰退産業の中に見出したこと~本質価値が未来を開く~」と題された約2時間の講演で、古い体質の業界で日々悪戦苦闘しながら築き上げてきた“新しい畳の未来”について語った。
畳の新しい可能性について講演する鏡芳昭氏
畳業界の未来を「集約化が始まる今が正念場」と予測し「畳屋のリバイバルを実現するには市場を創造していくしかない」とる鏡氏は、2017年に「TATAMI TOMORROWプロジェクトスタートアップイベント」を開催、新ブランド「TATAMI-TO」も立ち上げて国内外で活動している。
研修会終了後は懇親会も開かれた。 (記者:小牧洋)