大川英伸さん(Praha)に聞きたい10のこと (後編)
今、最もホットなヘアデザイナーが語る「クリエイション」について
注目のヘアデザイナーに、クリエイションについてお聞きしているこの企画。今回は、『Praha』の大川英伸さんの後編、Q6~Q10までをご紹介します。
Q6 撮影依頼がくるようになるまでは、どんなことをしていましたか?
20代の頃は、自分の頭の中にあるものを「具現化する」ということをやっていました。シチュエーションも含めて思い描くものを形にしたくて、ロケでゴールデン街に行ったりもしましたね。その頃はフィルムで撮っていたからその場で確認もできないし、現像してみてはじめてこうなっていたのか!とかいうことの繰り返し。そこから、少しずつ積み重ねていって、今に至っている感じです。当時は今みたいに簡単に発表できるような場もなかったので、作品ができても先輩に見せるくらい。ただ、どこに売り込みに行くわけでもないんですけど、ブックみたいなものはつくってましたね。昔の作品を今見てみると、けっこう面白いですよ。
Q7 撮影でこだわっていること、心がけていることはありますか?
僕は準備が一番だと思っていて、後悔しないようにやりきるようにしています。アーティストじゃないし、即興でできるようなテクニックもないから、何もしていないと奇跡は起こらないんです。だからとにかく準備はしっかりする。でもそれらをきちんとしていると、当日、少しだけ奇跡が起こるんです。決して余裕というわけではないんですが、遊び心が沸き起こってきたり、しかもそれが現場でうまくはまってくれたりもする。例えばスタイリストさんが用意してくれた衣装の中から、絶対これじゃないというものを選ぶのを面白がれるとか。それもこれも、ベースのスタイルをしっかり練っているからこそできることなのかなと思うので、事前の準備は毎回欠かせません。
2017年10月号『5APPROACH』より、1、4、5スタイルめの写真。「最後のスタイルをつくろうとしたとき、これ以上切りたくなくなってしまったモデルさん。でもその後、気持ちを持ち直して“ボウズでもいいです”と言ってくれたときに、モデルさんの気持ちが嬉しいのと彼女を追い詰めてしまったという不甲斐なさとで、初めて撮影で泣きました。」モデルさんとの絆をはじめ、さまざまな気づきが得られた思い出深い作品。
Q8 大川さんの好きな世界観は?
20代の頃は映画を年間300本見るような生活を何年もしていたし、本もたくさん読んだし、さまざまな芸術にも触れてきたのですが、情報はたくさん入ってくればくるほど、その中に「毒」も一緒に入ってくるんですよね。僕はちょっと毒っぽい人や個性的な人が好きで、「なんでこうなれるんだろう」とか「なんでこんなに自信があるんだろう」とか、一種の憧れだと思うのですが、どこかまっすぐな感じがするものに心惹かれるみたいです。ティーンの頃に受けた音楽からの衝撃に加え、さらに映画や芸術に興味を持って過ごした20代をベースに、今の自分の考えが組み合わさることで、好きな世界観が形づくられているのかなと思いますね。
2014年9月号の『HYBRID BEAUTY』より。「SHINBIYOで一番印象深いのは、“破壊”をテーマにしたこの作品。5年以上も前なので、今見ると作品としてはどうかと思いますが、自分の中で振り切った感がありました。Q3(※)で話した「嫌われるもの」を意識してつくった作品。でもその中に美しさを込めて、完全にナシではないところを目指しました。」企画内のマインドマップには、「美しきカオス」「タブーへの挑戦」「違和感」などの言葉が踊っており、大川さんの頭の中が垣間見られるのも興味深い。(※)Q3は大川さんの前半インタビューに掲載されています
Q9 ヘアデザインをつくる上で、影響を受けた人は誰ですか?
アシスタントの頃に『boy』の茂木さん(正行氏)のヘアショーに行ったことがあるんですが、そのときに「美容師はちゃらちゃらしたことばかりじゃなくて、今地球の裏側で起こっている出来事(戦争)とか、いろいろなことを知らなくてはいけない。それを踏まえて髪を切っていかないとダメだ」と言っていたのが、すごく頭に残っています。他のサロンのステージはモデルさんがキャットウォークしているような煌びやかなものだったので、余計にガーンときましたね。今、時代の中で起こっている出来事に対して興味を持つこと、この時代と共にある髪をつくるということを、初めて意識した瞬間でした。また、音楽とかアートとか写真とか、それまでは別々に存在していたものが点と点で結びつくかのように、自分の中の芸術的な部分と美容とが結びつくきっかけとなったので、デザインをつくる上でも大きな転機になったと思います。
Q10 これから撮影に取り組もうとしている皆さんへ、メッセージをお願いします。
僕が伝えたいのは「否定しているものを受け入れられるようになると、世界が広がる」ということです。自分の「好き」を増やして表現をしていくことは、自分の核をつくることにもつながるので大切なこと。でもさらにその「反対」を受け入れられたとき、また価値観が大きく変わるんです。
僕自身の体験ですが、『Praha』を立ち上げる前のサロンはヴィジュアル系専門店ではなかったものの、お客様からの要望が多く、何年もヴィジュアル系のヘアばかりをつくっていたんです。同業の美容師からは「ヴィジュアル系=ヤバい」とバカにされたりすることも多く、悔しい思いもたくさんしました。理想のヘアをつくれない現実を前に、鬱屈とした思いを抱えてNYに向かったところ、9・11が目前で起きて。でも、生きるか死ぬかを前にしたとき、ヴィジュアル系とか何系とかは、本当にどうでもいいなと思ったんです。何系でもいいから、とにかく皆を満足させてやる!と。そしたら見えてなかったものが見えてきて。「否定」を受け入れるということは、もしかしたら「本質を見る」ということなのかもしれません。僕の場合は、何系何系と物事の上っ面しか見ていなかったけれど、相手を人として見ることができるようになってからはデザインが変わっていった。その時から、美容師として生きていくことについて少しわかったような気がしたんです。皆さんも自身が「否定するもの」を受け入れるようにしてみて、自分の世界を広げていってほしいですね。
大川英伸/ Praha
おおかわひでのぶ 1974年生まれ、群馬県出身。日本美容専門学校卒業後、都内3店舗、群馬県1店舗、都内1店舗を経て、2006年に東京・代官山に『Praha』オープン。前衛的なスタンスで既存のヘアデザインを再構築し、常に新しいデザインを打ち出すことがモットー。大胆さと繊細さを併せ持つ作風で、美容師からの注目も集めている。