国際文化学園(平野徹理事長)では国際文化理容美容専門学校(荘司礼子校長)での理容・美容教育のほか結髪・化粧等の歴史的変遷、とくに先史、古代の髪型研究を目的に先に「美容考古学研究所」(村田孝子所長)を設立し活動を行ってきたが、その第1回報告会を12月2日午後2時から、都内渋谷区の同校ホールで開催した。全国各地の遺跡等を通じて様々な角度から研究が行われてきた縄文時代だが、同研究所が取り組んでいる縄文時代の髪型研究に関しては「ほとんど手つかずの状態(篠原博昭主任研究員)」だという。考古学研究に携わる各地の博物館職員、研究者などが参加したこの日、基調講演や再現した土偶髪型の展示、縄文石器によるヘアカット実演等が行われた。
平野理事長は挨拶で同研究所設立に至った経緯や今後の抱負等について「歴史の中で髪型が話題になるのは主に明治時代の断髪令や平安時代の長い髪などだが、当研究所では縄文土偶にも様々なヘアスタイルが見られることに注目し掘り下げてきた。この時代の髪型がどのような歴史を 経て現代の我々につながっているかを辿るような研究を目指したい」と語った。
平野徹理事長
また、荘司校長はギリシャのアテネで多くの遺跡に触れた時の話を紹介し「遺物のかけらから当時の様子を想像し再現するのは尊い作業。今日の報告会はほんの始まりに過ぎないが、業界にとっては意義のある第一歩だと考えている」と述べた。
荘司礼子校長
続いて基調講演が行われ、慶応義塾大学文学部教授(民俗学考古学研究室)の安藤広道氏が「美容考古学の意義と可能性」と題して、考古学と社会の関係や同研究所による活動の価値等について話した。安藤教授は、美容考古学研究の可能性や課題について「縄文時代の髪型解明は従来の考古学の研究方法では難しい」としながらも、手掛かりとして「髪(美容)のプロの知識と経験」を挙げ解明の可能性を示唆した。その上で「この美容考古学研究所の活動が、考古学という学問と社会を結びつける大きな可能性を秘めているのではと思っている。様々な問題解明の糸口にもなるのではないか」と期待した。
このあと主任研究員の篠原氏が縄文土偶の髪型について、ウィッグで再現した髪型画像や女性モデルによる再現スタイルを紹介しながら解説した。
それによると、縄文初期の遺跡(5千年~1万3千年前)からは髪型と認められるような土偶はほとんど見つかっていないものの、中期に入ると頭部に象徴的なデザイン(蛇を頭に巻いたり、顔が無い三つ編み等)の施された土偶が長野、山梨を中心に多数出土している。また、晩期になると髪型土偶は東北北部を中心に有名な遮光器(雪メガネ)土偶(青森)、おかっぱ土偶(岩手)なども発見されているが、同時代の終わりとともに髪型土偶は姿を消したという。
報告会ではまた、黒曜石など縄文石器によるヘアカットの実験や、「縄文人は髪を洗ったか」というテーマでは、研究員が栃の実を水に漬けて作った“シャンプー”(弱酸性液)で1か月間髪を洗った結果など数々のユニークなレポートも行われた。
鋏メーカーの高橋一芳会長が縄文石器(黒曜石)でカットに挑戦
後半には、縄文土偶の髪型だけでなく世界中の髪型を研究しているという東海学園短期大学名誉教授の尾関清子氏が、土偶の髪型にまつわる興味深い話や貴重な写真を紹介した。尾関氏によると、当初は土偶の結髪自体を認めない専門家もいて苦労したという。最後に村田孝子所長が「調査研究はまだ始まったばかり。今後も継続して様々なことを調べ皆さんに報告する機会を設けたい」と挨拶し、関係者に情報提供の協力を求めた。
村田孝子所長
(記者:小牧洋)