SAKURAさん( Cocoon )に聞きたい 10 のこと (後編)
今、最もホットなヘアデザイナーが語る「クリエイション」について

注目のヘアデザイナーに、クリエイションについてお聞きしている連載企画。前回に引き続き、『Cocoon』のSAKURAさんが登場です! 今回は、後半の5つの質問をご紹介します。弊誌でご担当いただいた過去作品に対しての解説もあります。インタビューと合わせて是非ご覧ください。

Q6 クリエイションにおける、失敗や苦い思い出はありますか?

以前、VAN(Cocoonオーナー)に依頼された撮影があったのですが、急遽、撮影の前日に自分が担当することになりました。色々な事情の中、「やるしかない!」と心を決め、当時の自分なりに一生懸命頑張ったのですが、後々仕上がりを見たVANに「これ以上ないくらい、形になっていない」と言われてしまって…。本当にその時の思いは忘れられないです。正直今でも思い出すのが悔しいくらいですが、そういう思いを残しておくという意味では、自分にとって大切な作品になっています。できなかった時の自分や、そのときの悔しさはちゃんと覚えておかないといけないし、振り返ることで次につなげなければいけない。撮影で急に実力以上のことを出すのは無理なことで、いつもやっていることの集大成でしかない。だから大切なのは、やはりサロンワークなのだと気づかされました。「サロンワークを大事にしろ」ということは日頃から教わっていたのですが、何もできなかった自分を目の当たりにしたことで、より技術に向き合うきっかけになったと思います。

Q7 この出来事をきっかけにどのように変化しましたか?

やはりあのときの悔しさのおかげで、そこから徐々に仕事に対しての向き合い方が変わりました。具体的には、サロンワークの一つ一つを、最大限の力でするようになったこと。「これくらいかな?」というあやふやな感じではなくて、「こうなんじゃないか」ということをどんどん試していく感じ。自分の中に絶対にぶれない軸をつくりたいと思っていた時期とも重なってもいて、日々どれだけの頭に触るか、自分のお客様が入らないときは、他のお客様のアシスタントに入ったりでもいいから、とにかく手をいっぱい動かすことを心がけました。自身がつかんできた手の感覚とか経験とか、それは何があっても裏切らないと思うんです。「ぶれないもの(軸)=技術」であり、それがあれば、したいと思うことがちゃんと絞られる気もしています。自分の大好きなサロンワークと技術向上がつながっていることはすごく幸せですし、やりがいも感じて今に至ります。

Q8 ヘアデザインに影響を受けた人は?

それはもう、師匠(VAN氏)ですね。今の自分は、師匠なくしては存在していなかったとさえ思います。元々理論派なほうではあるのですが、自分だけではここまで深く掘り下げて形をつくっていくところにまで至らなかったと思うんです。出会えていなかったら、もっと感覚的につくっていたかもしれない。そういう意味でも、自分のデザインをつくる上で、一番影響があった出会いだと思います。

ことあるごとにいろいろな気づきを与えてくれたことも、自分の成長において大きかったと思います。VANはその時々のタイミングで、必要なことを先回りして言ってくれるんです。「先に言わないで!!」みたいなときもあるんですが(笑)、そういうときは、こちらの気持ちに合わせて間合いを取ってくれます(笑)。助言を受けるだけでは簡単には身につきませんが、実際に自分で取り組んでみることで、自分の言葉で説明ができるようになるのが楽しいですし、今ではその部分を埋めていくのが大好きな作業になっています。家族ともまた違う、特別な存在である「師匠」と思える人に出会えたのは、本当に幸せなことだと思っています。

(SHINBIYO2019年6月号『ORIGINAL DESIGN』より)

テーマは「ショートのフォルムコントロール」。黄色の背景のボブは、昔VAN氏が切ったバランスがカッコよくて、いつか切ってみたいと思っていて挑戦したもの。形の構築ができたときに、自身が思っていたよりも髪の動きや毛流れの柔らかさが出て、「これか!」と自分の中でいろいろとつながる発見があったという。

Q9 師匠の教えについて、具体的なエピソードを教えてください。

日頃お客様を担当していく中で、意識的にやっていることが「悩み(ネガティブ)の共有」ということ。お客様が抱えている悩みというのは、その方の素材や変えられない部分から起こっていると思うんです。だから、その悩みやそこから生じるネガティブなことをお互いに理解し、共有することがとても大事。その上でデザインや形を落とし込んでいくと、お客様の「似合う」や「満足」を引き出せる、ということを学んできたと思っています。

そのことに気がついたのは、実は『SHINBIYO』の「5APPROACH」という企画を通して。その時のインタビューに、「お客様のネガティブな部分を変えたい」という思いが書かれていて、今までそんな風に整理して考えたことはなかったんですが、自分でも心底納得できましたし、VANの教えを理解できるようになっていたことに対しても嬉しさがありました。

(SHINBIYO2018年4月号『5APPROACH』より)

SAKURAさんが担当してみたかったのが、この『5APPROACH』企画。以前、VAN氏の撮影を見学したときは、現場での表面的な部分の大変さしか見えなかったそうだが、実際に担当した際には、全てを自ら決断しなければならない精神的な部分の厳しさを感じ、「ものすごい気づきと大きな達成感」を得たという。「毎日の積み重ね」の強み、サロンワークを一生懸命やってきたからこその手応えを感じられた企画。

Q10 作品撮りに取り組みたい人、うまくいかない人に向けてのメッセージをお願いします。

作品撮りってゴールがあるものではないのに、最近は「こういうのがいい」という情報が多すぎて、ゴールをつくりすぎな気がするんです。自分の大事なものが何かを知ることのできる大事な場所でもあるから、自分が目指している大事なことに対して取り組めばいいと思うんです。だから特別なことをしようと思わないで、毎日の自分の仕事を信じて、それを振り返ってみる、という気持ちで取り組むと、作品撮りをする意味も出てくるのかなと思いますね。

誰かの評価って絶対にそれぞれ好みがあるから、いいも悪いも意見は出る。だからそんなことは気にしなくても良くて、「私がつくるモデルさんの姿が一番可愛い」と心から思える作品をつくるべきだと思うんです。ゴールは誰かにいいって言ってもらうことではなくて、そのモデルさんの一番可愛いところを見つけてあげられること。それはサロンワークでも一緒で、「この人に頼んでよかった!」と思ってもらえることが幸せだと思うから、目的は変えなくていい気がします。いつもやっていることを信じてやっていく中で、苦手な部分がわかったら、次はあえてその苦手な部分に挑戦をしてみたり。そうすることで幅は広がっていくんだと思います。

サロンワークと撮影は両輪のようなものなので、どちらかだけをやっていても見えてこないものがあると思います。まずは携帯のカメラでもいいから、やってみるといいですね。いつものことをやりつつ、いつもはやっていないことにも挑戦してみる。そうするとまた違う、新しい課題が見えてくるんじゃないかなと思います。

SAKURA/さくら1984年生まれ、石川県出身。日本美容専門学校卒業後、都内1店舗を経て、『Cocoon』のオープニングに参加。現在、ディレクターを務める。創作への熱い思いを持ち、常に進化し続ける、美容業界でも注目の女性美容師。