パーマやカラー、トリートメント、処理剤etc.……、
いろんなケミカルプロダクツのパフォーマンスを
夜な夜な検証している研究熱心な美容師さんを毎回、お一人、ご紹介する
「YONAYONA CHEMICAL」
今回のゲストは、こちらの方!
『BoTaN HAIR』の土屋建語さんです!
土屋さんは、2年前からインスタを中心にケミカルに関する検証結果を投稿し、
現在フォロワーは1.5万人。2年という短期間で、これだけのフォロワーを集めた背景には、
何かと難しい方向にいきがちなケミカルを、
常にサロンワークに立脚した実践的なテーマでわかりやすく解説したからのよう。
土屋さんのサロンがあるのは、神奈川県横浜市港北区日吉。
最寄り駅の日吉は、
慶応大学のキャンパスがあることで知られている駅です。
『BoTaN HAIR』は、キャンパスとは反対側の出口にある
放射状に伸びる3本の商店街のひとつ、浜銀通り商店街沿いにあります。
入口の看板もグリーンをふんだんに使っていて、オシャレ!
オーナーの土屋さんは、サロン名の由来についてこう話します。
「『BoTaN HAIR』の『ボタン』は、服のボタンから取りました。もともと妻がボタンが好きだったんですよ。
ボタンは、服と服を繋ぐものですよね。そこから派生して、人と人、心と心を繋ぐ、感じ合える
そんな空間にという思いから命名しました」
なんて素敵なエピソード!
サロンの空間もいい感じで、お客様もこだわりのある方が多そうな雰囲気です。
土屋さんは、
とにかく施術をしていて疑問に思ったことは、即検証がモットーなのだとか。
「ケミカルというと、化学的な側面ばかり勉強しがち、
特に昨今のSNSでの表面的な情報によって、それが加速してるように思われます(汗)。
実際のところウィッグや毛束で検証をあまりしてない方が多い気がしますね。
ボクは『本当にそうなの?』からなんでもスタートします(笑)。
化学の理論はとても大事だし検証するときの一番の仮説はそこから。
だけど、毎回そこが一致するとは限らない。
まだまだ髪の内部のことは研究者でも未知なところが多い気がします。
ましてや僕ら美容師レベルは直接髪の内部まで見れませんものね」
そんな土屋さんに、「今までの検証で特に面白かったものってありますか?」
と質問したところ、こんな回答が返ってきました。
「“ウェット塗布とドライ塗布では、実は薬剤の反応速度が変わる”って、ことを検証した動画はどうでしょうか?」
マジっすか! 気になるーー! しかもこの動画、プレアイロンの検証までしているぞ。
引用:B-laboチャンネル
動画では、
同じウィッグのネープ部分を3分割し、それぞれ塗布前の条件を変えています。
左がウェットの状態で、真ん中がドライの状態、
そして右がアイロンの熱で一旦伸ばしたプレアイロンの状態です。
そこへ、低アルカリ高還元のシステアミンと中アルカリ高還元のチオのミックスを塗布。
その後、17㎜のロッドでらせん状に巻いていきます。もちろんテンションなどワインディングの条件も一緒です。
巻き終えたら、1剤の放置タイムは10分、15分、20分と経時的に見ていきます。
まずは、10分放置後のカールの出方を見てみると……
ウェット塗布のかかりが一番弱く、
ちょっと分かりづらいですが、次がドライ塗布、一番かかりが良いのがプレアイロンといった結果になりました。
さらに15分後、20分後のカールの出方を比較したのがコチラ
やはりカールの出方は、ウェット塗布<ドライ塗布<プレアイロンという順番でした。
動画では、毛束に補助線を入れて、リッジの違いをさらに分かりやすくしています。
ところで、何でこんな違いが出るんだろう? そのことについて土屋さんに聞いてみると、
「ウェットで塗布すると、髪の内部に水分が入りますよね。その分、同じ還元剤を使っても濃度が薄まると思うんです。また髪にも取り込める水分量の限界があるので、ウェットで塗布するとその分、薬剤が入る余地が少なくなる。結果、パワーが弱まると考えています」
なるほど! 反応速度に差が出るのには、そうした理由があったんですね。
ちなみにプレアイロンのかかりが一番良かったのは、
「アイロンを入れたことでより脱水状態になっているからかと。あと、髪本来のうねりなどを一度ストレートアイロンでリセットした状態にロッドを巻いたので、一番ロッドの形状が忠実に出たのかもしれませんね。いずれにせよ、プレアイロンもドライの状態からの塗布になるので、『ウェット塗布<ドライ塗布』でかかりが良かったと言えます」
とのこと。
プラス情報として、土屋さんは、
「プレアイロンはかかりにくい髪に向いていますが、結構、真っすぐになり過ぎたりすることもあるので、ストパー施術の場合は個人的にはほとんど使っていません」
と付け加えてくれました。
この検証をしたおかげで、サロンでは基本の塗布法をドライに統一することにしたそう。
またドライ塗布にすることで、
「ウェット塗布の時より薬剤のパワーを3割くらいダウンさせてケミカルの負担を抑えた提案ができるようになりました」
とのこと。
さらに応用的な使い方として、薬剤を作用させたくない箇所はあえてウェット塗布にするというアプローチも使うようになったのだそうです。
最後に土屋さんの検証は、夜な夜なじゃないそうです(笑)。
「昔は営業後、深夜までコツコツやっていたのですが、コロナを機に、そうした勉強や練習会をすべて朝に変えたんです。その方がスタッフたちの健康にも良いので」
さすがです! 今のコンプラもばっちりの土屋さん、
さらなる検証結果お待ちしてます!
ドライ塗布
- メリット
・薬剤の浸透が良くなるので減力できる(髪の弾力をキープできる)
・クセ毛の場合、クセを見極めながら塗り分け塗布できる
- デメリット
・GMT、スピエラ®などのエステル系は、エイジング毛のヘムラインには
過剰に反応することがある
ウェット塗布
- メリット
・塗布がしやすい
・ドライ塗布と比較すると浸透速度はゆっくり
・水で薬剤が薄まるのでパワーが弱められる
- デメリット
・水で薄まる分、薬剤のパワーを増幅する必要がある
・水素結合などの捻転毛などはクセの範囲がわからなくなる
プレアイロン塗布
- メリット
・薬剤の浸透がかなり良くなるので減力できる
・強いクセも伸ばしやすくなる
- デメリット
・施術に一手間増える
・ストパー施術の場合、仕上がりが、まっすぐになり過ぎる
・GMT・スピエラなどのエステル系は、エイジング毛のヘムラインには
過剰に反応することがある
・クセを見極めながらの塗り分け塗布ができない
土屋建語(つちや・けんご)
1973年生まれ、静岡県の伊豆出身。チェーン展開している大規模サロン2ブランドでの店舗責任者を経て、2005年、神奈川県横浜市・日吉に『BoTaN HAIR』をオープン。コロナを機にサロンの新たな収益源を開拓すべく、SNSでの活動に力を入れる。現在、Instagramのフォロワーは約1.5万人。メーカーのセミナー講師なども務める。昨年より、サロンワークでの薬剤の疑問に答える縮毛矯正スペシャリストの道しるべとして「ツチヤ塾」も開校。Instagram:botan_hair_